ベスブ石の街
ベスブという街の名前は、ベスブ石から来ているのだと、立ち寄った酒場で教えられた。
ベスブ石は、ガーネットにも似た黒っぽい石であり、この街では通貨として使用されている。だから私も、外から持って来た通貨を、ベスブ石の通貨に換金して使っていた。
街の名前になり、通貨にもなるくらいだから、ベスブ石はこの街の人にとって価値のあるものなのだろうと思っていたのだが、滞在する内に、そうでもないことを知った。
この街では、ベスブ石が自然と現れる。
誰も知らぬ内に、地面の上に一mはあるベスブ石が横たわっている。それは「生える」というよりも「涌く」なのだと、酒場の主人は教えてくれた。どれだけ取り払っても地面から湧いてくる困った存在。それがベスブ石なのだと言っていた。困ったという言い回しが、とても印象に残った。
滞在の最終日、私が泊まっていた宿屋の近くで一騒動があった。
一夜の内に、直径五mほどのベスブ石製の玉が道の真ん中に現れたのだ。すぐに石工が何名もやって来て、玉を解体していった。
二時間ほどで玉は消えたが、ベスブ石に対する人々の態度の理由がわかった気がした。
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