珪化木の廃宮殿

 その廃宮殿は珪化木で作られていた。巨木のように見えるが、実際には化石なのだ。

 見た目は木なのに、手で触れると石のように固い感触がする。

 巨大な廃宮殿の外壁には、曲線と直線を複雑に組み合わせた紋様が、ビッシリと彫りこまれている。これだけの紋様を刻み込むのに、果たしてどれだけの時間がかかったのだろう。

 昔は、大勢の者がこの廃宮殿に住んでいたと聞く。ところが、いつのころからか見捨てられ、人の住まない廃墟となった。その際、唯一の扉も閉ざされ、中には入れなくなった。

 取り壊してもいいのだが、街の人々はそうは考えなかった。というのも、この珪化木が元々、どのような種類の樹木であったのかが全く分からなかったからだ。いや、むしろこの世界のどこにも存在しない樹木であったから、と言い直すべきなのかもしれない。

 空の彼方から落ちて来た神聖な宮殿。

 それが、街の人々の考えであった。

 この世界に存在しない樹木の化石の中で、果たして誰が暮らしていたというのだろうか。

 かつての住人に思いを巡らせながら、宮殿の正面の扉を戯れに叩いてみた。

 開かないはずの扉が、静かに動き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る