カーネリアン・モンキー

 阿井島に生息する猿たちは、その紅の美しい毛並みと共に、何もない空間から鉱物を採り出す習性で知られている。

 猿たちが採り出す鉱物は、紅玉髄である。この鉱物の英名にちなんで、猿たちはカーネリアン・モンキーと呼ばれている。

 彼らは樹木の頂上まで上がると、必ず右手を高々と空に向かって伸ばし、ギュッと握りこむ。握られた拳は、平均して数分間そのまま維持され、ある時を境にして開かれる。

 開かれた拳からは小さな紅玉髄が零れ落ち、樹木の枝や幹に当たって音を立てながら、地面へと落ちていく。阿井島の樹木の下に紅玉髄が散らばっていれば、間違いなく猿たちが採りだしたものだと断言できる。

 猿たちが紅玉髄を採る理由も、方法も全てが謎に包まれている。猿たちは紅玉髄を採ると、すぐに捨ててしまう。あの紅色を愛でるわけでもなく、むしろ忌避するかのように、拳の中に現れると同時に捨ててしまうのだ。

 何もない空間から、自分たちが忌避する物体を採り出す習性。それはある種の呪いのように、この猿たちの行動を規定し、島を紅玉髄の一大産地に成長させたのである。

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