蛇紋石

 蛇紋石ですねと医者に言われた。

 宝玉のような緑色の石を吐き出すようになって、早くも一ヶ月が経とうとしている。

 蛇の鱗にも似た模様を持つ玉の名が分からず、医者に尋ねたのである。

 医者は内科医だという。だが、彼の背後にはキャビネットが置かれていて、中には瓶に詰められた無数の石が並べられていた。

 白衣姿の医者は、キャビネットの扉を静かに開けると、一つの瓶を取り出した。中には、私が夜な夜な吐き出す、あの丸い石とそっくりのものが詰め込まれていた。

「蛇紋石です。不眠症の方がよくお吐きになる石ですね」

 不眠であることを見透かされた気がした。思わず、背筋をピンと伸ばしてしまう。

「不眠の理由は人それぞれでしょうが、眠らないと、石は生まれ続けるでしょうね」

 医師の言葉が脳裏に蘇る。喉の奥に苦しさを覚え、私はベッドの上でえずいた。

 口から石が零れ出る。途端に喉の苦しさは癒えた。

 唾液に濡れた玉を取り出す。丸いそれは、瞳のようにも見える。そう思うのと、石が開き、蛇の瞳が覗いたのは、ほぼ同時だった。

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