祖父の鶏冠石
祖父の実家には、
橙色を多分に含んだ、拳大の石で、祖父の書斎に飾られていた。
剥き出しで置かれた鶏冠石は、どことなく鶏に似ていた。そう伝えると、祖父はお前には見る目があるなと喜んでいた。
実際、この鶏冠石は時々、鶏のように鳴いていた。それはいつも、私が独りで祖父の書斎に忍び込んでいる時に起きた。
祖父の書斎は、鶏冠石以外にも色々なものが置かれていた。見たこともない動物の標本や骨、あるいは奇妙な構造の建築物のミニチュアなどが置かれているのだった。
貿易商を営んでいた祖父が、世界中から集めたコレクションだった。私はその奇妙さに心を動かされ、しばしば書斎に忍び込み、その色彩や造形を目で見て楽しんでいた。
鶏冠石が鳴くのは、正にそんな時だった。
澄んだ声音で石は鳴いた。私はその鳴き声が好きで、聴こえるたびに心を躍らせていた。
昨年祖父が亡くなり、遺言に従って、鶏冠石は他のコレクションと一緒に、私の物となった。祖父は私を後継者に選んだのだ。
鶏冠石は今、私の書斎に飾られているが、まだ環境に慣れないのか、鳴き声は聞かない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます