第37話 現実での誤射は致命的



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーブ、ブモォ、オオォ……」


「はぁ。やっと、くたばったか……」



 黒グレイヴの攻撃をマトモにぶつけること計七回。

 見た目に相応しいタフネスさを持っていた黒ミノタウルスがやっと倒れてくれた。

 俺も黒ミノタウルスの何度か攻撃が当たりはしたが、金属化した身体の表面に薄っすらと傷を作る程度だったので〈再生〉ですぐに元通りになった。


 〈錬金鎧〉による全身金属鎧化の際に着ていた衣服は、その衣服の上から追加で金属鎧を纏うーーこちらは外装鎧と呼ぶことにしたーーように装着することで保護してある。

 その金属鎧の内側の衣服のポケットに入れていたスマホが振動していたので、外装鎧のポケット部分だけ解除してスマホを取り出して電話にでた。



「もしもし。今、黒いミノタウルスを倒したところだ」


「お兄さん! 倒したなら早く、早く加勢してくだサイ!」


「流石に疲れたんだが……」


「私はずっと走ってマス!」


「赤い布も持ってないのに闘牛達から大人気だな」


「お兄さんッ!」


「分かった分かった。今行くよ」

 


 通話を切ってスマホをポケットに仕舞いながら離れた場所に視線を向けると、ソフィアがミノタウルスの大群に追われていた。

 そう、四体のミノタウルスではなくミノタウルスの大群にだ。



「……まさか〈ゲート〉が開くとはな」



 ネット上でモンスターを掃き出す空間の亀裂は〈ゲート〉と呼称されている。

 このゲートには幾つか種類があることが分かっており、今回この田園地帯に開いた……いや、開いていたゲートは、〈ボス〉と言われる特殊モンスターを倒すまで定期的にモンスターを掃き出し続ける黄色のゲートだった。

 その黄色の光を放つゲートが消えていく。

 状況的にも俺が倒した黒ミノタウルスがボスとみて間違いないようだ。


 俺が黒ミノタウルスと戦い始めてすぐに、少し離れたところに黄色のゲートが開かれ、そこから大量ミノタウルス達が出現した。

 俺は黒ミノタウルスと相対していて気付かなかったが、場所的にソフィアはミノタウルスの増援にすぐに気付いたらしく、既に負傷している最初の四体のミノタウルスをウェルダンに焼いて処分したようだ。

 おそらく、増援のミノタウルス達の前で四体のミノタウルスを倒したことが原因で追いかけられているのだろう。

 或いは黒ミノタウルスと俺の戦いに参戦するのは避けたか、といったところかな。

 結果的にソフィアのおかげで戦いに集中できたので早く助けてやるか。



「さて、助けに……ん?」



 妙な気配を感じて振り返ると、黒ミノタウルスが使っていた両刃斧が雷電とは異なるスパークと光を発しはじめていた。

 爆発でもするのかと疑いたくなる現象に思わず身構えるが、幸いにも爆発することはなく、一際強い光を発した後に両刃斧は姿を消した。

 その代わりに、両刃斧があった場所には金色の装飾が施された黒い籠手が浮かんでいるのが見える。



「……もしやアレが噂の〈ボスアイテム〉か?」



 ネット上でも〈魔法のアイテム〉など色々呼称はあるようだが、ゲートのボスを倒した際に稀に手に入るアイテムらしい。

 稀にというだけあってネット上でも真偽の怪しいレベルの噂であり、俺もこうして直接目にするまでは嘘だと思っていた。

 だが、どうやら噂は本当だったようだ。

 

 黒金色の籠手が一人でに動き出し、俺の両手へと飛来してきた。

 両手に触れた瞬間に再び強い光を放つと、いつの間にか黒金色の籠手が両手に装着されていた。



「うーん。馴染む。不気味なほどに馴染むな」



 噂は嘘だと思ってちゃんと見てなかったし見た情報も忘れかけているが、確か使用者が自動で選ばれるんだっけ?

 帰属するとか、専用武器化とか色々言われていた気もするが……後で情報を見直さないとな。



「てっきり黒ミノタウルスの能力と思ってたのに、この力からして両刃斧の力だったのかねぇ?」



 装着した瞬間から何故か理解できた籠手の力からして間違いないだろう。

 となると、黒ミノタウルス自身から能力を得られるとしたら雷電能力じゃなさそうだな。



「さっそく力試しができるとは……牛肉遠征は大成功だな!」



 元の青白い色から銀色へと変色した雷電を両手の籠手から発する。

 この籠手を装着している間は俺は雷電を無効化できるらしいが、ソフィアはそうではないため誤って感電させないようにしないと。

 現実のフレンドリーファイアは勘弁だな。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る