第38話 雷能力って大体強キャラ感があるよね



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーソフィア! 刀を鞘に納めてから駆け抜けろ!」


「どういう意味デス?」


「納刀しとかないと避雷針の気分を味わうことになるかもしれないぞ!」


「よく分かりませんが、それは嫌デス!」



 俺に言われた通りに刀に纏わせていた〈風刃〉を解除して納刀したソフィアは、そのまま全速力で俺の横を駆け抜けていった。

 ソフィアと彼女を追いかけるミノタウルス達との距離が空いたのを確認すると、仮称ボスアイテムの黒金色の籠手を装着した右手を前に突き出す。



「祝、遠距離攻撃」



 突き出した右の籠手の掌から銀色の雷電が放出される。

 前方の広範囲に放射された銀色の雷電ーー銀雷がミノタウルス達へと襲い掛かると、その巨体が麻痺したように感電して動きを止めた。

 動きを止めるだけでなく、多少はダメージも与えているように見える。



「コレはコレで使えそうだな。じゃあ、こっちはどうだ?」



 自分自身に宿る能力を使うように籠手に命じると、右手の掌から放射されていた銀雷が一度止まる。

 そして次の瞬間、目も眩むような発光とともに銀雷がレーザーのように発射された。

 放たれた銀雷は、射線上のミノタウルス達を貫いていき、そのまま遠くの方にある土手の斜面に直撃してから消滅した。



「……まるで雷みたいだな。レーザー感もあるし雷光モードと呼ぼう。一つ前の銀雷のばら撒きは放電モードと呼ぶか」



 それにしても腹が減ったな。

 ボスアイテムの力を使うのにもカロリーは消費するようで、腹が鳴りそうになっている。

 黒ミノタウルス戦から補給無しで戦っているから正確な消耗具合は分からないが、費用対効果は悪くない気がする。



「残り一つまでは保つだろう。ベタに雷拳モードかな?」



 持ってきたグレイヴを地面に突き刺すと、両手の拳に銀雷を纏う。

 そのまま前へと駆け出し、恐れずに襲い掛かってきた残りのミノタウルス達からの攻撃を避けながら、その巨体へと雷拳を叩き込んでいった。

 拳打による衝撃に付随して、放電モードの広範囲攻撃の銀雷が拳の一撃に集められた感じだろうか?

 多数のミノタウルスの動きを止めてダメージも与えられる放電モードの雷撃全てが、一体のミノタウルスに叩き込まれるだけあって、雷拳を喰らったミノタウルスは落雷でも落ちたかの如く一撃で絶命した。

 そのまま連続で残りのミノタウルス達へと雷拳を叩き込んでいき、数分後には全てのミノタウルスの殲滅を終えた。



「お兄さん……」


「あ、悪い。全部黒焦げになってしまったな。これもウェルダンと呼んでいいのか分からないけど」


「ウェルダンって言うほど焼かれてないノデ、試食するだけしてみればいいデス……って、そうじゃなくテ!」


「どうしたよ?」


「何デスカ! そのグローブ! さっきの雷ってそのグローブからでしたよネ? ズルいデス! カッコいいデス! 何処で拾ってきたんデスカ!」


「こんな物騒なのが落ちてるわけないだろ。俺が戦った黒ミノタウルスがボスモンスターだったみたいでな。倒してからゲートも消滅した後に、奴が使っていた雷の両刃斧が変化したんだよ」


「ボスモンスター、デスカ?」



 首を傾げるソフィアに、以前ネット上で偶々見た真偽の怪しいボスアイテムの情報を教えてやった。



「……何だかゲームとかマンガみたいデスネ」


「モンスターや超人に、能力とかがあるのに今さらだな」


「そういえばそうでしタ……お兄さん」


「どうした?」



 地面に突き刺したグレイヴを拾い肩に担ぐと、冷凍トラックの元へと歩いていく。



「次にボスモンスターとエンカウントしたら私が倒したいデス」


「どんなボスモンスターかアイテムかも分からないのに?」


「だって魔法のアイテムって羨ましいデス。お兄さんの話を聞くニ、倒した人に適した形に変化するんだと思いマス。だから、きっと私に役立つはずデス」


「あー、言われてみればそんな感じだな」



 いざとなったら肉弾戦だし、遠距離攻撃欲しいって思ってたし、両刃斧から籠手に変化した理由は凄くそれっぽいな。

 冷凍トラックの車体にグレイヴをへばり付けてから運転手席に乗り込む。

 同じように助手席に乗り込んできたソフィアが、俺の手を取って抱きついてきた。

 捕まった腕が、柔らかくも弾力のあるナニカに埋まるのを感じる。



「お兄さん、ボスを倒したいデス……」


「……ソフィアでも倒せる強さのボスならソフィア一人で。ソフィア以上に強いボスなら俺一人か俺達二人で倒すのを約束するなら、近いうちにボスを探しに行こうか」


「ありがとうございマス、お兄さん!」



 決して金髪碧眼色白美少女の色仕掛けに負けたのではない。

 これは俺達の戦力を向上させるのに必要なことなのだ。

 未だに豊かな双丘に挟まれている腕の感触を感じながら、ミノタウルス達の死体が転がる場所へと冷凍トラックを移動させた。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る