第36話 今日は肉の日、肉焼く日
◆◇◆◇◆◇
迫りくる五体のミノタウルス。
その足が地面に這わせた謎金属を踏み付けた瞬間、自動反撃の罠が発動した。
「ブ、ブモォオオオオーーーッ!?」
地面から瞬時に伸びてきた金属杭がミノタウルス達の屈強な肉体を貫く。
「まだだ。先んじて火を通してやる」
「お兄さん! ウェルダンだと肉が硬くなりすぎマスヨ!」
確かに、今でさえ筋骨隆々で硬そうな見た目だから、焼きすぎたら更に硬くなりそうだな。
「そういうことなら、レアかミディアムぐらいだな?」
付加効果が分かる程度に火力は抑えとくとしよう。
ミノタウルスに突き刺さる金属杭経由で〈炎熱掌〉改め〈双炎掌〉を発動させる。
金属杭から発せられた蒼紫色の炎がミノタウルス達を内と外から焼いていく。
これまでのオレンジ色の炎から蒼紫色の炎へと変化したが、ちょうどいい検証相手がいなかったため、その効果は不明だった。
ちなみに、通常は蒼紫色の炎だが、少し出力を抑えれば今までのオレンジ色の炎も出せたため能力名は〈双炎掌〉にした。
ただ単に火力が上がっただけなら、元のオレンジ色から青色の炎へと完全に置き換わる気がする。
任意で切り替えられるのには理由があるはずだ。
「ブモッ、ブモ、オォオオオ?」
「動きが鈍くなった、か?」
燃焼ダメージで動きが鈍っただけかもしれないが、微妙に負傷や火傷によるものとは違う気がする。
感じられる気配は確かに小さくなっていってるが、それ以上に動きに精彩さを欠いているのがみてとれた。
「取り敢えずは弱体化の炎って認識でいいか」
足を〈錬金鎧〉で金属化させると、燃え盛る金属杭の山を駆け上がっていき、通常のミノタウルス達を飛び越える。
その先には金属杭の壁を迂回しようとしている黒ミノタウルスの姿があった。
金属杭から炎が発せられる直前に、後方へと退がって金属杭を抜いていたのは見えていた。
通常のミノタウルスとは身体のサイズだけでなく防御力にも差があるらしく、金属杭は然程刺さっていなかったのが原因だろう。
となると、このままの状態のグレイヴではあまりダメージを与えられないかもしれない。
「せっかくだ、フルで行こうか!」
全身を謎金属化し、そのフォルムをデュラハンのような鎧甲冑姿へと変える。
それだけでなく、金属鎧化した肉体とグレイヴに〈黒化〉を発動した。
金属質な輝きを放つ黒鎧状態で〈怪力〉を追加発動させると、黒グレイヴを黒ミノタウルスへと振り下ろした。
「ブモォオッ!!」
黒ミノタウルスの頭上から振り下ろした黒グレイヴに対して、雄叫びとともに雷電を纏う両刃斧が振り上げられてくる。
凄まじい衝突音と衝撃が金属化した身体に響いてきた。
おそらく、普通の金属ならば黒グレイヴを通して両刃斧から伝導してきた雷電に身を焼かれるのだろうが、この身もグレイヴも普通ではない謎金属製だ。
検証の結果、形質だけでなく性質もある程度は意図した通りの金属特性を付加できることが判明している。
今回の金属化の際に付加したのは、非常に高い電気抵抗だ。
通常状態の謎金属の性質から変化させたことでカロリー消費は増えたが、これで黒ミノタウルスの雷電は意味をなさなくなった。
「ブモォオオァッ!!」
「ハハッ、ご自慢の雷電が通じなくてお怒りか? それとも膂力が拮抗したからか?」
電気抵抗の極大化だけでなく、質量も通常よりも増やしているため質量差から簡単に吹き飛ばされることもない。
頭上からの超重量に〈怪力〉、そして〈黒化〉による強化も組み合わせた斬撃は、黒ミノタウルスの足元にクレーターを作るほどの一撃にまで昇華した。
これほどの重さと膂力を持ちながら素早さは変わらないというのだから、つくづく謎金属だと思う。
武器同士の衝撃の反動を使って距離を空けて着地すると、すぐさま黒ミノタウルスへと駆け出す。
両刃斧が地面に振り下ろされたことで大地が割れ、土砂による壁が目の前に隆起する。
「目眩し……だよなッ!」
視界を封じられた次の瞬間、土砂の壁を斬り裂きながら強烈な両刃斧の横薙ぎの一撃が襲い掛かってきた。
〈全身電化〉によって加速化された思考の中で攻撃を認識すると、前方に滑り込みながら回避する。
〈骨格稼働〉の骨格の動きを補助する力も使って人体の限界を超えた体勢のまま黒グレイヴを振り抜いた。
「ブモォオァアーーーッ!?」
「チッ。浅かったか」
やはり無理な体勢なだけあって剣刃の切っ先しか当たらなかった。
咄嗟に最近検証していた衝撃波の刃ーーそのまま〈衝撃刃〉と命名したーーを切っ先から発したおかげで、まぁまぁのダメージを与えることができた。
だが、致命傷にはほど遠く、黒ミノタウルスはより一層お怒りになったように見える。
そのタイミングで後方からの熱波が更に増したのが感じられた。
どうやらソフィアが〈大気操作〉で金属杭の炎の火力を上げたようだ。
「……ウェルダンはダメって言ってなかったっけ?」
後方を直接確認したいが、流石に目の前の黒ミノタウルスから目を離すわけにはいかない。
となると、さっさと終わらせてから確認するのが一番か。
次は〈超感覚〉でしっかりと黒ミノタウルスの動きを認識しておくので、もう目眩しも不意打ちも通用しない。
駄目押しに謎金属を纏うグレイヴの剣刃に蒼紫色の炎を灯すと、三度目の正直とばかりに黒ミノタウルスへと斬り掛かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます