第28話 トレードオフからは逃げられない



 ◆◇◆◇◆◇



 自宅であるペントハウスのバルコニーから煙が上がる。

 火事ではなく七輪から上がる調理の煙だ。


 デカウサギ狩りの途中でエンカウントした巨鳥の肉を炭火焼きにしているのだが、非常に美味そうな匂いがしている。

 グルメ番組では紹介されていないモンスター肉なので、モンスターではない普通の鶏肉の部位を参考にして解体してきた。

 これを食べても問題ないようなら残りも明日朝一で回収しに向かうとしよう。



「お兄さん、全部揚がりましたヨ」


「鳥もそろそろ焼けるから、こっちで食べよう」


「ハーイ。唐揚げを持っていきますからテーブルを出しておいてくださいネ」


「分かったー」



 バルコニーにテーブルを運んで食器などの準備を済ませると、ソフィアが山のように大量に積み上がったデカウサギの唐揚げを持ってきた。

 ソフィアが味付け含めて調理してくれたが、この揚がり方からして一目で美味いと分かる。



「カリッとしたのが好きだと言ってましたカラ、半分以上はカリカリにしましたヨ」


「おー、ありがとう。本当に美味そうだな。じゃあ、さっそくいただきます」


「いただきマス」



 月並みの感想だが、外はカリッと中はジューシーな仕上がりだ。

 味付けも肉自体の味としっかりと調和していて、少し濃いめの良い塩梅なので、追加の味付け無しにいくらでも食べられる。

 炊いた白米との組み合わせも最高なのは言うまでもない。



「モンスター肉は初めてでしたケド、ちゃんとできて良かったデス」


「うん。本当に美味いな。ソフィアの料理の腕が予想以上だったのもあるが、デカウサギの肉も良い気がする」


「良いと思いますヨ。名前は忘れましたケド、昔食べたお高い良い鶏肉の味と似ていマス」


「なるほど。もっと早く知りたかったな。じゃあ、未だ味や調理情報のない巨鳥の肉はどうかな?」



 焼き上がった炭火焼きの巨鳥肉も期待して食べてみる。



「んー、少し大味で固めだけど悪くはないな」


「普通の鶏肉って感じデス?」


「そんな感じかな。まぁ、普通に食えるな。塩じゃなくてタレの方が合ってそうだ」



 どこかからタレを調達してくるのが良さそうだ。

 今回の獲得したモンスター肉の順位を付けるなら、上から黒デカウサギ、普通のデカウサギ、巨鳥って感じだな。



「黒デカウサギの肉は普通のよりも一段階上だな」


「明日は黒デカウサギのお肉だけは全部持ち帰りまショウ!」


「勿論だとも」



 黒デカウサギを狩った後、巨鳥を倒した建物の屋上に俺の〈錬金鎧〉の力を使って食料保管庫を作ってきた。

 解体した肉を謎金属塊で作ったクーラーボックス風ケースに小分けて入れて、その大量のケースを貨物コンテナ風の食料保管庫に収納した。

 全てのケースの中身を、ソフィアの新たな能力〈大気操作〉で出来るだけ空気を減らしてあるので劣化は最低限に抑えてある。

 とはいえ、それだけでは不十分なので駄目押しに、周辺の無人の建物内にある冷蔵庫などから大量の氷を調達して密閉された保管庫内にバラ撒いてきた。

 アレだけやっておけば初夏でも半日ぐらいは保つだろう。



「そういえば、お兄さんは黒デカウサギを倒してカラ、何か能力は手に入りましたカ?」


「いや、まだだな。ソフィアは?」


「私もまだデス」


「まぁ、モンスターによって能力が手に入るのと手に入らないのがいるみたいだしな。そこに獲得確率や人によって能力を宿せるか否かの個人差といった要素も関わるって噂もある」


「獲得までの時間差もありますよネ」


「それもあったな。討伐後すぐに使えるようになる時もあれば、一日後に獲得できたって例もあるらしいな」


「まぁ、ネット情報ですけどネ」


「ああ。だから話半分に聞いておくべきだろうな。ただ、討伐後すぐに使えたっていうのは経験済みだ」



 怪物トカゲを討伐中に失われた左腕が討伐後に復活していたので、怪物トカゲから得た〈再生〉はすぐに獲得されたとみて間違いない。

 ネット情報ではあるが、海外で怪物トカゲに酷似したモンスターが討伐された際には、自然治癒力が強化された程度の能力だったそうだから、俺の〈再生〉は派生能力か異能に分類される能力だろうな。



「だから長くても一日ぐらいはみた方が……あ、獲得できたみたいだ」


「フラグでしたカ」


「みたいだな」



 右手に中身が空になった白色系の茶碗を持ち、左手を金属腕状態にしてから獲得したばかりの能力を使った。

 すると、白い茶碗が黒く染まり、鋼色の左手も黒に染まった。



「んー、どうやらシンプルな強化系みたいだな」



 黒くなった茶碗を右手で割ろうと握り締めたが、罅すら入る様子がないほど頑丈になっている。

 茶碗を置くと、右手も金属腕状態にして手刀を作ると黒くなった左手を切り裂いてみたが、こちらも傷一つ入ることがなかった。



「使いやすそうな能力デスネ」


「ああ。でも、カロリー消費が凄いみたいだから多用はできないな」



 世界変革前なら満腹になるぐらいの量の唐揚げを食べたのに、この能力を使った瞬間に少し空腹感を感じてしまった。

 〈錬金鎧〉と組み合わせたら強そうだが、燃費はかなり悪くなるようだ。



「まさに切り札ですネ。名前は何にしますカ?」


「シンプルに〈黒化〉でいいだろう」


「そのままデスネ。分かりやすいですケド」


「そうだろ? 能力を意識して使うための名称でもあるから、自分で把握出来てさえいればいいからな」



 〈黒化〉を解除したら強化対象も元の状態に戻ったが、当然ながら失われたカロリーは戻ってこなかった。

 いざという時のために、しっかりと食い溜めしておく必要がありそうだ。

 ますます食料の重要性が上がったので、明日のモンスター肉の回収は必ず行おうと強く誓いつつ、ご飯をおかわりし高カロリーな唐揚げを爆食するのだった。




 

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