第27話 調子に乗りすぎてはいけない
◆◇◆◇◆◇
「ーー逃がすなよ、ソフィア!」
「勿論デスッ!」
刀だけでなく足にも風を纏えるようになったソフィアが、まさに疾風の如き速さで駆けていく。
その後を大型バイクで追走しつつ、ソフィアが向かう先にいる三体のデカウサギーーウサギなら三羽だが、モンスターなので三体と数えることにしたーーに視線を向ける。
元自宅があるエリアにてエンカウントした三体のデカウサギの内、先頭を走る一体の体毛は白ではなく黒だった。
ただの個体差なのか別種なのかは分からないが、同じデカウサギならば喰えるはずだ。
逃げに全振りしているデカウサギはかなり速かったが、ソフィアが新たに獲得した二つの能力である〈疾風脚〉と〈威圧〉の効果によって、デカウサギとの距離は徐々に縮まってきている。
今回はソフィアによる狩猟だから手を出さないが、俺だったら石やナイフでも投げて動きを止めてから狩っていただろう。
ソフィアは普通に距離を詰めてから攻撃を仕掛けるつもりのようだ。
「おっと」
進行方向上の道路に放置車両といった障害物が見えた。
デカウサギ達やソフィアはジャンプして飛び越えていくが、バイクを走らせる俺ではそうはいかない。
なので、〈金属腕〉から進化した〈錬金鎧〉の金属塊を使うことにした。
前方に伸ばした右手を金属化させると、次々と金属塊を生成・分離・射出していく。
進行方向上に着弾した金属塊を変形させ、それぞれの金属塊を連結させる。
数秒と掛からずに出来上がった謎金属製スロープをバイクで駆け上がり、全ての障害物をスルーしてみせた。
高さも難易度も異なるが、昔子供の頃にやった平均台渡りみたいだ。
渡り終えた部分の金属塊はスロープから分離させ、背中から尻尾のように伸ばした金属触手で接触し回収・同化していった。
昨日行なった検証でそれぞれの操作にかかる時間は把握した。
だから可能だろうとは思ったが……改めて人間を辞めた感があるな。
真っ直ぐ障害物を無視して進む俺に気付いたソフィアがギョッとしたような表情になっていた。
続けて、先の方を走っていたデカウサギ達がこちらを振り返り、やはりギョッとしたような表情で驚いていた。
まぁ、ウサギの表情なんて違いが分からないから雰囲気での判断だが。
慌てたように近くの建物の屋根へと登っていくデカウサギ達。
更に上に上がれば逃げられると思ったのだろうか?
「あっ」
気付いた時には、上空から急降下してきた鳥系モンスターに黒くない普通のデカウサギの片割れが捕まっていた。
人間大のデカウサギを足で捕まえられるほどのデカさの鳥系モンスターなので、適当に巨鳥と呼んでおこう。
人の獲物を掠め取って去ろうとする輩を許すわけにはいかない。
「ソフィアは残りのウサギを追え!! アレは俺が狩る!」
「了解デスッ!」
残る二体のデカウサギをソフィアに任せて、屋上に向かって謎金属製スロープを形成していく。
スロープをバイクで駆け上がりながら、胴体から生成した謎金属製の義腕にハンドルを握らせると、正面のタンク部分に謎金属を使って貼り付けておいたアサルトライフルを手に取った。
建物の屋上にて、捕らえたデカウサギの頭部を嘴で突きトドメを刺した巨鳥の翼に向かって引き金を引く。
軽快な音を立てて吐き出された銃弾が、巨鳥の片翼を瞬く間に穴だらけにする。
「飛べなくなった鳥は狩られるものだ」
片手で背負っていたグレイヴを引き抜くと、屋上に上がると同時に巨鳥の頭部を刈り取った。
ブレーキだけでなく人外の身体能力と〈錬金鎧〉の力も使って強引に停車する。
崩れ落ちた首無し巨鳥の死骸をチラッと見てから、グレイヴの剣刃に付着した血糊を払った。
グレイヴを再び背負うと、回収を終えたばかりのスロープに使った謎金属塊を射出して下りのスロープを形成した。
「鳥とウサギの回収は帰りだな」
バイクで来たから大量には持ち帰れないが、一部だけならばやりようはある。
その後、再びアクセル全開でスロープを下るとソフィアと合流した。
合流した先では追いついたソフィアと黒デカウサギが戦っているところだった。
「ソフィア、そいつは俺にも倒させてくれ」
「あ、おかえりなサイ。いいですケド、能力デスカ?」
「ああ。なんか特殊そうなウサギだろ?」
「確かに、このデカウサギ結構強いデス」
黒デカウサギの近くには残りの普通のデカウサギが倒れていた。
速攻で勝てたアチラとは違って、黒デカウサギはまだソフィアと戦って生きているため、それなりに強いことが分かる。
まぁ、あくまでもそれなりにだが。
「よっと」
一気に距離を詰めると、グレイヴを振り抜いて黒デカウサギの胴体を上下に真っ二つにした。
真っ二つになった黒デカウサギが絶命したのを確認すると、グレイヴを背負い直す。
「お兄さん……」
「悪いなソフィア。あまり時間を掛けすぎるわけにはいかないからーー」
「もっと丁寧に倒してくださいヨ! 強敵なら仕方ないですケド、雑魚なら丁寧に屠殺しないと肉質が悪くなるかもしれないじゃないデスカ!」
「あ、ハイ。仰る通りです。スイマセンでした……」
プンスカと怒るソフィアに平謝りする。
確かに、食用に狩りにきた上に相手は雑魚なのだから丁寧に狩るべきだったな。
まぁ、なんとなく可愛い子犬に吠えられている気分なので全く怖くはないけど。
その後、吠えるソフィアを宥めつつ、彼女とともにデカウサギ達の死骸を解体していった。
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