第26話 喰うか喰われるかは意思次第



 ◆◇◆◇◆◇



 料理人の名前的にも、料理番組ではなくグルメ番組と称するのが合ってる番組〈悪食か美食か〉を視聴した翌日。

 さっそくデカウサギの肉の味を確かめるべく、ソフィアと一緒にデカウサギ探索に出かけた。

 俺達が住んでいるマンションの周辺は、アンデッド系モンスターが出没するオフィス街にほど近いため、基本的にゾンビ以外のモンスターの姿は見当たらない。

 なので、デカウサギを探しに少し遠出をしている。



「デートですネッ!!」


「随分と血生臭いデートだな!」



 走行している大型バイクのエンジン音に負けない声量で叫ぶソフィアに、俺も大声で叫んでツッコミを入れる。

 俺の後ろに乗っているソフィアが、〈錬金鎧〉製のヘルメットを被ったままはしゃいでいる。

 今日が元々休息日なのと、先日みたいな強くなるための義務のように行なっていたアンデッド狩りとは違って気軽な気分で出掛けているからだろう。



「……あるいは、大型バイクに二人乗りでテンションが上がってるのか?」


「何か言いまシタッ!?」


「何でもない!」



 何かテレビのツーリングとかの番組で使っているインカム的なのを用意しとくんだったな。

 まぁ最初はこんなものかと思いつつ、背負っているグレイヴの柄の部分でも妨げることができないほどの、弾力のある魅惑のクッションが背中に押し当てられることになったので、現状のままでも悪くないかもしれない。

 

 軽いドライブ気分と機動性の両立のために大型バイクに二人乗りをしているが、今回の目的はウサギ系モンスターであるデカウサギだ。

 俺がデカウサギを最後に目撃した場所と言えば、かつての自宅があった地域になる。

 外を彷徨けばちょくちょくエンカウントしていたが、今はどうなっているだろうか?



「あれから一週間か……」



 見上げるほどに巨大な怪物トカゲに自宅のマンションを破壊されたのが、なんだか遠い昔のように感じる。

 アンデッド系モンスターとの戦いとソフィアとの共同生活の日々が、それだけ濃厚かつ刺激的だったのだろう。

 二度の夜間アンデッド狩りツアーは倒したモンスターの数も質も派手さも確かに凄かったが、世界変革前の社会人時代には関わりのなかった十代の美少女との生活のほうが刺激度が上なのは間違いない。


 初めて会った時にソフィアが着ていた高校の制服は既にボロボロだったため、アンデッド狩りツアーの時から制服は着ていない。

 だが、今となってはあの時の制服姿がちょっと惜しくも感じる。

 中身はまだしも、元々の容姿が大人っぽいので、今のアウトドア用のクールなパンツスタイル姿からは女子高生感は感じられない。

 まぁ、ソフィアの性格からして指摘したら着用しそうな気がするが、第三者に見られた時に俺の趣味だと思われてしまう可能性があるため、口は固く閉ざしておく。



「ん、どした?」



 ソフィアが俺の腰に回していた手で俺の太腿をバンバン叩いてきた。

 俺が反応すると、その手で進行方向から少し離れた場所を指差したので、そちらへと視線を向ける。

 そこには畑らしき場所で農作物を食べているデカウサギの姿があった。

 ただし、そこにいるのはデカウサギだけでなく人間達の姿もある。

 手にスコップやら包丁やらバットやらを持っており、雄叫びを上げながらデカウサギへと攻撃を仕掛けようとしていた。

 取り敢えず道路の端に停車してエンジンを切った。

 これでソフィアと普通の声量で話せるな。



「遠目に見る限り一般人か?」


「一部はチョットだけ超人化が進んでマセン?」


「んー、ゴブリンレベルを一、二体って程度の強化力なら、ほぼ一般人みたいなものだろう」



 モンスター討伐数が三桁に達している俺とソフィアとは比べるのも烏滸がましい強化力だ。



「タイミング的に番組ですよネ?」


「そうだろうな。世界変革後に、家の近くの店などからどうにか掻き集めた食料品が底をつきはじめたか、底をついたぐらいのタイミングとも言えるな」



 今いる辺りが住宅街なだけあって、軽く気配を探ってみると生存者はそれなりの数がいた。

 九割はモンスター討伐による強化力が無い一般人で、残りの一割もゴブリンよりかは強い程度の超人達のようだ。

 家の中で息を潜めて救助を待ちながらテレビやSNSで情報を集めていたのだろう。

 そんな折にグルメ番組なんかが放送され、数ヶ月ぶりに美味そうな料理を見せつけられたのだ。

 空腹感に苦しんでいた者達が、一か八か外出してデカウサギを狩りに向かうのも仕方ないのかもしれない。

 被害はそれなりに出るだろうが、結果的に人々の超人化も進むことになりそうだ。



「……まさか、それが目的か?」


「どうしまシタ?」


「いや、なんでもない」



 一瞬嫌な想像が頭を過ったが、俺には関係のないことなので気にしないことにした。

 デカウサギに勝利し雄叫びをあげている脱一般人の集団から視線を外すと、再び元自宅エリアに向けてバイクを走らせた。



 

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