第25話 食事は必要不可欠だよ



 ◆◇◆◇◆◇



 テレビの画面上では、料理番組が生放送されていた。

 まともに食材や食料を調達できなくなったこのご時世に放送する料理番組というだけあって、その内容も普通の料理番組ではない。

 〈美食家グルメ〉と名乗る料理人が調理しようとしている食材は、なんとモンスターだった。

 各地で食料不足が嘆かれ問題視されているため、その打開策としてモンスターを食べれるか否かの実証を行うことを目的とした料理番組とのこと。


 ちょうど第一回放送だったようで、今後の放送する時間帯も食事時を意識して行うようだ。

 その記念すべき最初の食材となるモンスターは、巨大なウサギ系モンスターであるデカウサギだった。

 まぁ、デカウサギとは俺がそう呼んでるだけなのだが。

 実際に番組でも大きなウサギのようなモンスターと紹介されていた。

 ネット上ではジャイアントラビットと呼称されていたかな……そのまんまだな。

 なお、雑食でモンスターなので普通に人を襲います。



「第一回目なだけあって無難なモンスターを選んだな」


「無難、デスカ?」


「第一回目でいきなり明らかにハズレ枠な人型モンスターのゴブリンやオークを調理なんてしたら視聴者がいなくなるだろ?」


「確かにそれはハズレ枠デスネ」



 と言っても、実際には放送する前にちゃんと試すだろうから、本当に食べられないモンスターは使わないだろうけど。



「このご時世で視聴率なんて意味は無いだろうけど、視る人がいないならこの番組をやる意義がなくなるしな。既存の食肉動物の延長線上らしきウサギ系モンスターなら、まだハードルは低い。あと弱いしな、単純に」


「そうですネ。動きに慣れれば倒すのは簡単ですシ、あっ、解体もするみたいデスヨ。血とか臓物とか、放送しても大丈夫なんでしょうカ?」


「まぁ、屋内に引き篭もって全く戦っていない奴ら以外は、大なり小なり超人化の過程でモンスターと戦っているから見慣れているはずだ。それに可食部位を切り分けるためにも解体作業は避けられないし、その知識と技術も必須だから放送するのは当然だな」


「言われてみればそうデスネ。それに、解体技術と知識はモンスターを倒す時にも活かせそうデス」


「確かに活かせそうだな。録画しとくか」



 番組名で毎回録画しとくか……〈悪食か美食か〉って番組名なんだな。コメントに悩む番組名だ。

 常識的な筋力しかない一般人でも解体が行えるなら、どうしても戦うのが無理って人でも仕事ができそうだな。

 SNSでも、超人達に守ってもらうだけで、何もしようとしないタダ飯食らいの一般人に対する、超人達の不満溢れるコメントを最近よく見かけている。

 超人化によって獲得できる能力の中には、魔法系のようにカロリーを著しく消費する能力も珍しくはない。

 カロリーを摂取するには食事をするしかないが、その食料は量が限られており、避難所などの一般人がいる環境下では彼らの分も確保する必要がある。

 食事量の大小が生死に関わり、命を賭けてモンスターと戦っている超人達に、一般人に対する鬱憤が溜まるのは無理もないだろう。

 このことが深刻な事態を招く前に、モンスターを食材として使えるようになれば諸々の問題を解決できる糸口になるかもしれないな。



「流石に初の試みの番組を担当するだけあって手際がいいな」


「世界変革前は有名な料理人だったみたいデスヨ。ホラ、これデス」


「ちょっと昔の写真だがグルメだな」



 ソフィアが見せてきたスマホの画面には、今はグルメと名乗っている料理人の写真が本名とともに何かの料理雑誌に記載されていた。

 顔は覚えてなかったが、本名の字面は何かの有名番組で見たことがある気がするな。


 グルメが解体のやり方を説明しながらサクサクとデカウサギを捌いていく。

 やがて、可食部位だけになったデカウサギを使って解体以上に手慣れた手付きで調理していった。

 こうして調理されているところだけを見るなら、これがモンスターの肉だとは分からないな。

 画面上では一口サイズに切り分けられたデカウサギの肉が衣をつけて揚げられていた。

 おそらく大半の人が好きであろう肉料理、唐揚げだ。



「お兄さんは唐揚げ好きデスカ?」


「好きだな」


「それなら、今度このデカウサギの唐揚げを作ってあげマス!」


「……ソフィアは料理できるのか?」


「こう見えて料理は得意なんデス」


「それなら次の食事はソフィアに任せようかな」


「デキル女だというところを見せてあげマスヨ!」


「……失敗するフリじゃないよね? 大丈夫だよね?」



 ソフィアの自信満々なセリフに一抹の不安を覚えつつ、今は自分で作ったお好み焼きの味を味わうのだった。




 

 

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