第29話 何事にも向き不向きはある



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーふぅん。出来るかどうか試しにやってみたけど、ちゃんと発動したんだな」


「スプラッタデスネ……」



 俺とソフィアの目の前には、鋼色の剣山に貫かれて死んでいる死体が複数あった。

 鋼色の剣山、もとい謎金属製剣山の元々の形状は立方体であるコンテナ型だ。

 この〈錬金鎧〉で生み出せる謎金属は、俺の意思によって形状を変化させることができるという特性がある。

 その意思の反映度は、分離し射出した金属塊がスロープに変化したり、バイクを運転できる程度の動作性がある義腕など、結構融通が効くことが分かっている。


 一体どこまでのことが可能なのか。

 その検証の一環として、この謎金属製食料保管庫には食料保管庫を破壊しようとする輩に反撃するように意思を注入……まぁ、命令をしておいた。

 結果、どこかで俺達がモンスター肉を保管していたのを見ていた輩や、鋼色の金属コンテナに好奇心を抑えられなかった者達が骸を晒すこととなった。


 頭部や心臓部を貫かれた者は即死だっただろうが、この者達は運が良いほうだ。

 すぐに死ねなかった者達は、謎金属製の剣山の針に貫かれて負傷し動けなくなったところをモンスターに襲われたようだった。

 そういった死体は苦悶や絶望の表情を浮かべているので、全身を生きながら貪られでもしたのだろう。

 そのすぐ近くでは、襲撃者を貫く金属針に触れたことが攻撃判定にでもなったのか、食事中だった数体のモンスターも金属針に貫かれて死んでいた。



「百舌鳥の早贄みたいだな」


「モズのハヤニエデスカ?」


「こんな状態の死体のこと。詳しくはネットで調べてくれ」


「えっと……つまり、食料保管庫前が食料保管状態なんデスネ」


「そんな感じだな」



 それにしても、こんな風に遠隔自動操作で倒した場合でも能力は得られるのだろうか?

 討伐による身体強化については、今の強さでは大きく強化されない限り自覚できないから分からないんだよな……。

 何体かの人間とモンスターの死体に触れたところ、死んでからまぁまぁ時間は経っているように感じられた。

 たぶん昨日俺達が去ってからすぐに群がってきたのだろう。

 まだ半日も経ってないなら、能力が獲得できるかどうかの判断はまだつかないな。



「人間はまだしも、モンスターの死体はどうしますカ?」


「時間も経ってるから放置でいいよ」


「分かりマシタ」



 剣山フォームのままの食料保管庫に金属腕に変化させた手で触れて、食料保管庫を構成する謎金属の同化と回収を行なった。

 食料保管庫の解除とともに内部の空気が開放される。



「おぉ、涼しい」


「今日暑いですからネー」


「そうだなぁ。さっさと運び出そう」


「了解デス」



 ここまで乗ってきた配送トラックへと、小分けしたモンスター肉を納めた謎金属製ケースの山をせっせと運び入れる。

 食料保管庫があった建物の屋上からトラックの荷台まで謎金属製スロープを作ってケースを滑り落としていく。

 周囲を見渡せる屋上は俺が担当してケースを流していき、ソフィアが流れてきたケースを荷台の奥から積み上げていくという役割分担のおかげで、作業はすぐに終わった。

 これこそマンパワーと適切な役割分担の力だな。



「ようし、帰るぞー」


「ハーイ」


「お客さん、どこまで行きましょうか?」


「愛の巣までお願いシマス」


「ご自宅までですねー。かしこまりましたー」



 ソフィアとの謎のやり取りをしてからトラックを発進させる。

 助手席のソフィアがスマホから流している、どこかで聴いたことのある音楽を聴きながらトラックを走らせること暫し。

 道中の障害物を避けながら徐行していると、〈超感覚〉による気配察知が進路上に新たな障害物を感知した。

 ソフィアにも気配察知能力はあるが、俺の気配察知力ほど性能は良くないのでまだ気付いていないようだ。



「……ソフィア、お客様だぞ」


「お客様デスカ?」


「進行方向先に待ち伏せ。たぶん人間だな」


「んー、この辺りって昨日の人達がいた地域デスネ」


「そうだったか? なら、目的もお察しだな」


「世紀末デス」


「本当にな」



 そのまま停車することなく進み続けると、行きには無かった車によって道が封鎖されていた。

 トラックを停車させると、物陰から待ち構えていた集団が姿を現した。

 ソフィアに音楽を止めさせてから、窓を開けて彼らの言葉を聞く。

 彼らの要求を一言にまとめると、死にたくなかったら食料と武器を置いていけ、だった。



「彼我の力の差が分からないって、ある意味悲劇ですよネ」


「ゴブリンとオーガ以上に強化力に差があるのにな。まだ以前の世界の常識に捉われているみたいだ」



 向こうはバットや包丁などで武装した超人が十数人もいるから強気なのだろう。

 だが、あちらは最底辺レベルの超人が十数人だが、こちらは数々の修羅場を潜ってきた多分最高レベルの上澄みの超人が二人だ。

 全く話にならない脅しだった。



「本当に話にならんな」



 懐から拳銃を取り出すと、運転席の窓から彼らの中で最も強い気配を放つ男の頭部を撃った。

 あっさりと射殺されたことに硬直する残りの奴らを無視して、トラックに対して〈錬金鎧〉を発動させる。

 トラックの表面に謎金属を纏わせると、そこから金属針を伸ばして固まっている残党を老若男女問わず全員串刺しにした。



「……まだ私はそこまでは割り切れないデスネ」


「一人の時に躊躇わなければいいさ。俺がいる時は俺に任せておけ」


「ハイ。ありがとうございマス、お兄さん」


「大人の役目だから気にするな」



 微妙な表情をしているソフィアにそう告げてから、トラックの前面に作った謎金属製の触手で道を封鎖している車を跳ね除けた。

 ああいう集団がこれから増えるんだろうな、と思いながら再び自宅へとトラックを走らせた。




 

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