第19話 美人であっても同じ人間



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーキャラが濃ゆいな」



 纏め狩りをしている生存者の後をつけた先にて目撃した生存者は、予想していたのとは異なる意外な姿をしていた。


 まず性別は女性。ここは別に驚きはない。

 次に年齢だが、何処ぞのお嬢様学校の制服を着ているので、コスプレとかじゃないならば、おそらく十代後半。

 最後に容姿だが、白い肌に金髪碧眼の欧米系の美人さんだった。

 実年齢を十代後半と仮定したら美少女と評するべきだろうが、美女と表現したくなるほどの大人びた顔立ちとスタイルをしている。コスプレを疑ったのもこの容姿が理由だ。


 そんな金髪美少女が学生服姿で刀らしき物を振るってゾンビの集団を一掃しているのだから、キャラが濃ゆいという感想が出るのも無理もないだろう。

 振るった刀の軌跡に沿って風らしき刃が放たれており、気配で感知していたゾンビの一斉消滅はこの攻撃によるもののようだ。

 中々使いやすそうだし、能力まとめサイトで魔法系か必殺技系に分類されそうな能力は正直言って俺も欲しい。

 だが、俺は一人で頑張って生き抜いてきたらしき少女を倒すような鬼畜ではない。

 ここは一般人らしく平和的に接触してみるとしよう。



「やぁ、お疲れ様。今、少しい、おっと!」



 間髪入れず放たれてきた風刃に向かってグレイヴを振り下ろす。

 防げるか不安だったが案外簡単に破壊できた。

 更に数度風刃が放たれてきたが、片手でグレイヴを振るって打ち払っていった。

 全ての風刃を容易く防がれた金髪美少女が驚愕の表情を浮かべて硬直しているのが見える。

 この表情を見ての直感だが、この金髪美少女は格好通りの実年齢っぽいな。



「いきなり声を掛けて悪いね。キミの様子を見るに私と同じように一人で今の世界を生き抜いてきたみたいだから、良い機会だったから話を聞いてみたかったんだ」


「……」


「ああ、本当に他に人はいないよ。ちなみにゾンビも今なら周辺にいないみたいだ。キミのおかげでね」



 周りをキョロキョロと見渡す金髪美少女を安心させるように言葉を重ねる。

 俺の言葉を聞いた後、周りを見渡さなくなったから言葉は通じているはずだが、彼女の警戒は解けないどころかより一層不安そうにコチラの様子を窺っていた。

 はて? 何をそんなに怖がっているのだろうか……あっ。



「おっと、確かにこの格好では不安に思うのも当然だったね。ほら、ちゃんと人間だとも」



 正体を隠すために装着していたガスマスクを外して首から下げ、高級サングラスを胸ポケットに入れる。

 グレイヴも手離して地面に突き刺しておいた。

 万が一にも風刃を放ってきたら迎撃は間に合わないだろうが、俺には〈金属腕〉があるから問題ない。

 まぁ、その時は話すのを止めて容赦なく処するつもりだが。

 駄目押しに社会人時代に培った営業スマイルも浮かべておく。

 すると、俺の素顔が見えたことに金髪美少女は、あからさまに安堵した表情を見せた。

 周りに元人間のモンスターが溢れているのに油断し過ぎだとは思うが、仕方がないとこもあるのかもしれない。



「どうやら話を聞いてくれるようだね。周りの安全は確保できているようだから、ちょっとそこで食事をしながら話そうじゃないか。ハンバーガーは出せないが缶詰ならご馳走しよう。あっ、お菓子もあるぞ」



 小型リュックサックに入れて持ってきていた缶詰を複数個と戦利品のクッキーを見せながら、近くの某有名ファーストフード店を指差した。

 金髪美少女が戦っている時から彼女の腹からずっと聞こえていた空腹音を考慮すると、この誘い文句が最適解なはずだ。

 その答えが正解であることは、金髪美少女が缶詰とクッキーを凝視していることから明らかだった。

 今では超貴重な肉と魚の缶詰もあるから、きっとお気に召してくれることだろう。




 

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