第18話 人間は逞しい生き物だよ



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーよっと。こんなものかな……ぎっしりだな」



 道端で見つけた某有名配送会社のトラックの荷台に全ての物資を積み終えた。

 今日は全部で三つの店舗内を散策し、物資を調達した。

 三つの中でも最初に訪れた百貨店が最も多くの物資が手に入った。

 食品類はイマイチだったが、衣類や生活用品は色々とあったので今から新拠点の模様替えが楽しみだ。


 ポケットからピンポン玉よりも一回り小さいサイズの小石を取り出すと、ゆっくり近付いてきていたゾンビの頭部へと親指で弾く。

 小石による指弾が命中したゾンビの頭部が四散する。

 小石を指で飛ばすという、コスパに優れた攻撃手段を思いついたおかげで効率良くゾンビを倒すことができるようになった。

 まぁ、流石に濁流の如き数のゾンビが襲い掛かってきた時はグレイヴを全力で振るい続けたが、今のように一体だったり少数の時は遠くから指弾で処理している。



「これで何体目かな。百体は確実に倒してるから獲得していると思うんだが……」



 ネット上の能力まとめサイトでは適性があればゾンビから〈忍耐〉という能力が手に入るらしい。

 能力まとめサイトの検証によると、適性以外にも個人特性や特定の経験といった条件が合わさった場合は、特殊な変質が起こり、〈忍耐〉の代わりに〈不死〉などの〈異能〉を得ることもあるそうだ。


 このサイトを見て気付いたが、おそらく俺の〈金属腕〉は異能に当て嵌まると思われる。

 初のオーガ戦後に獲得していたが、本来オーガを倒した時に獲得する可能性のある能力は皮膚が鋼のように硬くなる〈鋼皮〉とのこと。

 〈全身電化〉や〈炎熱掌〉は異能レベルまではいっておらず、あくまでも個人特性による軽度の変質による〈派生能力〉でしかないのだろう。

 この根拠は、本来は魔法系または放射系と呼ばれる能力だったのが、近接仕様に変質した者が俺以外にもいたからだ。

 異能とはかなり厳しい条件の果てに重度の変質を経て獲得でき、元の能力の上位互換か全く別系統の能力である激レアなオンリーワンの能力であるそうだから、たぶん間違いない。


 モンスターや超人を討伐した際に、適性があったら身体能力の強化以外に獲得できる、モンスターや超人由来の力である〈討伐能力〉。

 適性があった場合に経験を重ねることで自然と獲得できる〈才覚能力〉。

 討伐能力が個人特性により軽度の変質を経て獲得する〈派生能力〉。

 派生能力に特殊な条件が重なることで重度の変質を経て獲得する、個々人固有の能力たる〈異能〉。


 このように能力まとめサイトでは、能力は各種類の名称含めて、獲得が容易な順に体系化されていた。

 個人的にも身に覚えがあるので納得できる部分も多い。

 まだ未発見・未確認のモノもあるようだが、概ねは間違っていないと思われる。

 


「はてさて、俺は〈忍耐〉を獲得したのか。または〈不死〉や未知の能力を獲得したのか。楽しみだ……おや?」



 積み込み作業を終わってからも索敵代わりに〈超感覚〉で気配を探り続けていると、索敵範囲内に生存者が侵入してきた。

 オフィス街初の生存者の気配だな。

 その背後に大量のモンスターの気配が確認出来たので、おそらく追われているのだろう。

 ただ、生存者の足は速いようなので追いつかれることはなさそうだ。

 そう思っていると、生存者が突然動きを止めた。

 程なくしてゾンビの群れの気配が生存者の気配がある場所へと近付いていきーー消滅した。



「……攻撃か? 反応的にわざと一ヶ所に集めて倒したのか?」



 ゲームでの纏め狩りみたいなモノかな。

 雑魚を効率的に倒して経験値を獲得する方法だが、現実でやる奴がいるとは。

 気配だけではどんな攻撃手段かは分からなかったが、ゾンビの気配の消滅の仕方からして衝撃波のような攻撃のようだ。

 銃撃音や爆発音はなかったが、車両が破砕される音は微かに聞こえたので無差別に攻撃が当たるタイプらしい。


 生存者の気配がまた移動を開始し、周辺のゾンビを釣り始めた。

 徐々に俺がいる場所から離れていくが……なんとなく気になったので観に行くことにした。



「ガスマスクを着けてるし、あとはサングラスがあれば大丈夫か」



 顔の下半分を隠すガスマスクに加えて目元を隠すサングラスも装着する。

 このサングラスは百貨店の上階で手に入れた高級品だ。

 オシャレアイテムとして回収しておいたが、まさかさっそく役立ってくれるとはな。

 目立つ自作グレイヴはどうするか悩んだが、生存者と戦うことになった時のために持っていくことにした。

 今の世の中、何が起こるか分からないしな。

 調達品である新品のコンバットブーツの慣らしも兼ねて生存者の後を追うことにした。

 前拠点の自宅が破壊される少し前に獲得したは良いものの、使う機会も必要もなかった才覚能力である〈気配希薄〉を使って気配を希薄化させると、グレイヴ片手に道路を駆けていった。



 

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