第20話 空気を吸わずに空気を読むのだ



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーそれは大変だったな」


「自分でもよく生き延びたなと思いマス」



 世界変革日から今日までに自らが経験した話を話し終えた金髪美少女……じゃなくて、えっと、〈九鬼・セルシウス・ソフィア〉は食事を再開した。

 持参した缶詰と今回調達した菓子類の九割を食べ尽くす勢いから、本当に空腹だったことが窺える。


 彼女の話によると、通学中にモンスターの騒動に巻き込まれ、そのまま避難所にて一ヶ月ほど過ごしたらしい。

 その避難所もある日突然モンスターに襲撃されて崩壊し、ソフィア達生存者は皆散り散りになって逃げた。

 避難所を脱出したソフィアはその足で自宅に戻ったが、既に生きている者は誰もおらず、刀剣収集が趣味だった義父の刀と最低限の私物などを持ち出した後は、食料を求めて放浪していたんだとか。

 自宅の一部がモンスターに破壊されていて篭ることは出来なかったそうだ。


 自宅に戻る最中に俺と同じように気配を探れるようになり、出来るだけモンスターとの戦闘は避けたが、それでも避けられない戦いが何度もあって今の強さに至る。

 戦いの話のところで遠い目をしていたことから、これまでに倒してきたのはモンスターだけではないのかもしれないな。

 なお、風の刃を放つ能力は、風を操る力を持つ大きな鳥型モンスターを倒したら手に入れていたらしい。



「まぁ、あれだけの強さがあるなら、強敵に出会さなければ今後も生き延びられるさ」


「……あ、あの、お兄さんは私を連れていってはくれないんデスカ?」


「キミも初対面の素性の分からない男と一緒に行動したくはないだろう?」



 一回りほど歳が離れた男とは一緒に行動したくはないだろうな、という至極真っ当な認識と判断で決めたのだが、どうやらソフィアは違ったらしい。



「そんなことはありまセン!」


「こんな極限状況下で若い男女が一緒に行動したら間違いが起こる可能性が高い。そんなことになったら、天国にいるキミのご両親達に申し訳が立たないからな……」


「覚悟の上デス! それに、きっと三人とも許してくれるはずデス!」


「でもなー」


「私も初めてですが、色々頑張りマス!」



 何故か頬を染めているが、一体何を頑張る気なんだろうなー、このムッツリスケベは?



「まぁ、最低限の自衛力はあるみたいだけど、俺は年下の女の子だからといって甘やかすタイプじゃないから、生活も想像しているよりも大変かもしれないぞ?」


「私を置いていこうとしていることから、お兄さんはドライな人だと分かっていますから覚悟の上デス。お兄さんは一人でも大丈夫みたいですケド、私はもうこれ以上の単独行動は限界なんデスヨ!」



 ドライ……まぁ酷い人と言われなかっただけマシか。

 悲痛な声を上げて一人で生き抜くのは限界だと訴えるソフィアの姿は確かにボロボロだ。

 それと、本人には可哀想なので口が裂けても絶対に言えないが、ぶっちゃっけ今の彼女は非常にクサい。

 避難所生活時は身体を拭いてはいたようだが、それ以降はそんな話は全く出てこなかったことから一ヶ月半以上は身を清めていないことになる。

 ボロボロの制服には血の痕らしきシミも多いことからモンスターなどの血肉も浴びてきたのだろう。

 数日ぶりの食事をするソフィアに付き合って対面の席で俺も缶詰の中身を食べていたのだが、そうじゃなければ首から下げているガスマスクを装着したかったぐらいだ。


 いくら美人でも庇護のみを求めてくるような輩だったら捨て置いたが、ソフィアにやる気はあるようだし、何よりも雑魚モンスターを一掃できるほどの戦闘力と、外の世界を一人で二ヶ月近く生き抜いてきたバイタリティーがある。

 一緒に行動する相手としてはこの上ない人材なのは間違いないだろう。



「んー、まぁ、若い女の子なのは予想外だったが、俺も戦闘力がある人手は欲しいとは思っていたところだ」


「それでハ?」


「俺がリーダーで指示に従うなら一緒に行動することを許可しよう」


「問題ありまセン。不束者ですが、これからよろしくお願いしマス!」



 独特のイントネーションのある言葉でこちらの条件を承諾したソフィアは、対面の席から深々と頭を下げてきた。

 一緒に行動……まぁ仲間だな。

 仲間になったのなら彼女用の物資も調達する必要があるが、もう日が暮れようとしている。

 夜になるとオフィス街に出現するモンスターの種類と強さがガラリと変わるそうなので、今日のところはさっさと脱出してペントハウスに帰るとしよう。

 行きとは違って同行人が増えたが、これからの共同生活はどうなることやら……。




 

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