眠れぬ獅子

秋乃晃

「幽霊って、いると思います?」


 タバコの補充をしている汐見しおみさんの手が、止まった。変なことを聞いたかもしれへんけど、作業は止めなくてええんやで。


 店長は裏の事務所でエリアマネージャーとミーティングを始めたから、店長じゃないと解決できないような余程の問題がなければ、売り場には出てこない。売り場は売り場で、昼のクソ忙しい時間ピークタイムが終わったところだから、棚がスッカスカになっている。もはや開店休業状態といっても過言ではない。もうちょっとすると納品が来る。せやけど、こういう早く来てほしいときにかぎってなかなか来てくれないんよ。客も少ないから、汐見さんに陳列順を教えるチャンスなのになぁ。


「いない、と思います」

「ほう。どうして?」

「……どうして、と言われましても。わたしには、見えないので」


 だ、そうだ。


 レジカウンターに両ひじをつき両手で自分のあごを支えるような格好をして、汐見さんを見上げている男の子・・・に目配せした。もし汐見さんが“見える”タイプの人ならば、こんな場所にいるこいつをスルーしないだろうから、見えてないっちゅーのは聞く前からわかっとんたんやけども。ウチもウチで“見える”とは言っとらんし。言わなきゃ、わからん。


聖奈せなちゃんのヒミツ、俺は知ってるよ。理緒に教えてあげようか?」


 得意げに言うんじゃない。


「普段は隠してるけど、聖奈ちゃん、実は機械なんだよ。家でメンテナンスしてた」


 家まで付いていったのかこのエロガキは。見えないからってやりたい放題やな。


 汐見さん(フルネームが汐見聖奈なので、親しげに『聖奈ちゃん』と呼んでいるようだ)は、確かに、年寄りの客から『応対が冷たい』『マニュアル通りのことしかしない』などと妙なクレームを入れられてはいる。総じて「ロボットみたい」と言われたら、そうなのかもしれへん。言いがかりにもほどがある。


 先月の真ん中辺りから働き始めて、研修はほとんど終わり。真面目で物覚えがよくて遅刻しなくてしかも美人さんだし、ウチとしては長く続けてほしい。店長も気に入ってそう。24時間365日営業のこのコンビニで、フルタイム希望で土日も入ってくれるってのはめちゃ助かる。


「宮下さんには、見えるんですか?」

「見えへんよ。昨日、心霊番組を見てな。はぁ、世の中にはそういう人もおるんけ、と思って聞いただけや」

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