第3話 ファインダー
カメラをもらってから、楽しくなってきた。初めは自分の部屋の物とかかわいい小物を撮っていた。だんだん部屋から出て、家族をとったり家の周りを撮ったりしていた。おじいちゃんに使い方を習ったりしながら撮っていた。
一週間ぐらいしたら、学校に持って行ってみた。まずは親友に、
「じゃ〜ん、一眼デジカメだよ。」
と見せて見ると。
「すご〜い、どうしたのこれ?」
「おじいちゃんがくれた。」
「新品というわけではないよね。」
「うん、おじいちゃんからお下がり。私たちと同い年だってよ。」
「え〜、そうなんだ。」
「これ、望遠レンズに変えられるんだよ。」
と言いながら、レンズを望遠のものに変えてみる。
「へえ〜、すごいじゃん。これで写真部にでも入るの?」
「いやそういうわけじゃないよ。」
「じゃあ、彼とるんだ。」
いきなりの発言に驚く。ちょっとニヤニヤした親友がむかつく。
「まっ、まあそういうことかな?」
「それでどこで練習しているかをマネージャーの私に聞きにきたというわけか。」
「お願い教えて〜。今日もプリンおごるから。」
「しょうがないなぁ。」
といって練習場所のスケジュールを教えてくれた。
運動場に一番近いのは理科準備室。そこからなら狙える。校舎裏からもいいが高さはあったほうがいい。
そこから狙って写真を撮っている。何となく本を読みやすい場所を探していたので、校舎のどこなら撮影できるかわかっていた。
そこで望遠ズームを向けてみた。距離はあるけれど何とか撮影できそうだ。
「広角側で彼を捉えてズームしていくと入れやすいとおじいいちゃんが言っていたな。」
ぼそっとつぶやいでそうして見る。はじめ米粒のような彼なのはスマホの時と同じだけれど、ゆっくりとズームして大きくしていく。そこまでアップではないけれど彼が映る。そしてシャッターを切る。
スマホの偽りのシャッター音ではなく、ちゃんと機械が動いてシャッターを切る。そして撮った写真を見る。米粒だった彼の姿は大きくなった。おじいちゃんからもらったカメラ、大活躍である。
野球のルールはわからないが、彼の投げたボールがキャッチャーのミットに吸い込まれていくのはわかった。そう、誰も打てないのだ。彼の笑顔を間近でみたことない私は何だか嬉しかった。
次の日もまた次の日も彼をファインダー越しに眺めていた。本を読みながら待ち、彼が見えるようになるとカメラを構えてファインダーの中を見める。ファインダーとは不思議なもので、世界を切り取ることができる。スマホも同じように写真は撮れるのだけれど、のぞいた瞬間もうそこには彼しかいないのだ。いつもいろんな人が囲まれている彼が一人でそこにいる。
これが何だか別の世界に思えてくる。しかもこの世界を知っているのは私だけ。その中に彼しかいない。何だかちょっぴり彼を独占できたような気がして嬉しかった。これってやばい人? と思ったが親友に話していきすぎているようだったらやめることにした。今のところ大丈夫のよう。
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