第2話 カメラ
家に帰るとおじいちゃんとおばあちゃんがいた。両親は共働きなので小さい頃は二人に育てられたようなもんだ。もうすぐ夕方の「相方」の再放送が始まるところだ。刑事ドラマでいつもおじいちゃんと一緒に推理する。
だいたい当たらないけれどおばあちゃんはちゃんと当ててくる。さすがだ。ちょっと抜けているけれど愛嬌のあるおじいちゃんと知的なおばあちゃんに囲まれて幸せである。
「おお〜、帰ったか。」
「うん…。」
「なんじゃ元気なないの?なんかあったか?」
「うううん、特になんにもないよ。」
何にもない青春に悩んでいるとは言えなかった。
「そうか、それならばよかった。」
いっしょに「相方」を見た。相変わらず犯人は当てられなかった。おばあちゃんは当ててた。さすがである。
何気なくスマホを見ていたらおじいちゃんが聞いてきた。
「なあ、スマホで写真って撮れるのかい?」
「うん撮れるよ」
「なんだか今のスマホはレンズがたくさんついているのぉ。」
「最新機種は望遠レンズもついているから、遠くのものも取れるよ。」
「お前のは撮れないのかい?」
「うん、ズームを使うとガシャガシャになる。」
「ちゃんと光学ズームじゃないからかのぉ。」
そう言えばおじいちゃんの趣味は若い頃からカメラだった。フィルム時代から使っているが、今は時代の流れに合わせてデジカメになり、最近はミラーレスのカメラにしたみたい。新しいカメラでパシャパシャ撮られてちょっと気恥ずかしかった。
「おじいちゃんのカメラってきれいに撮れる?」
「当たり前じゃ、ゆうなら携帯のおまけじゃないからの。」
「携帯のおまけって、今どきカメラ重視で選ぶぐらいなんだよ。」
「そうか。でもカメラはファインダーをのぞいて撮れるのがいいな。」
「ファインダーって何?」
「カメラでのぞくところじゃよ。のぞいて撮ると違うんじゃ。」
「スマホの方が便利じゃん。」
「まあ今の子はそうじゃろうなぁ。でもきれいに撮りたかったんじゃよ。」
「今のスマホもきれいだよ。」
「最近のはきれいなのは知っとる。でもカメラで撮りたいんじゃよ。ちょっと待っとれ。」
そう言っておじいちゃんは昔使っていたデジカメを持ってきて私を撮った。スマホでも撮った。それをパソコンに取り込んでメールで送ってきた。
「今時メール使っているのおじいちゃんぐらいだよ。」
「もう新しいことは覚えられん。ただでさえデジカメ使うのに頭使うのに。」
おじいちゃんからきたデジカメの写真とスマホの写真を見比べてみた。どちらもよく撮れている。でもなんだか違う。何がとは言えないんだけれどデジカメで撮った写真の方が自然だ。滑らかと言っていいかもしれない。写真を見比べているとおじいちゃんが、
「おっ、違いがわかるかね。」
「なんか違うんだよね。何がって言われてもわからないんだけれど、違うのだけはわかるね。」
「いいね〜。わしは今でもカメラで撮るのはそういうことなんじゃよ。」
細かい話はわからないけれど、なんか違うのがわかった。レンズのこととかCCDのこととか何か言っていたが、そこらへんのことはわからなかった。
「へぇ〜、大きいだけじゃないんだね。」
「興味あるならそのカメラあげるよ。お前が生まれたときに買ったのだけれど、今は新しいの買ったので使ってないからの。」
「おじいちゃん、このカメラで遠いところのもの撮れる?」
「うん、でもそのレンズじゃ無理じゃな。待っておれ。」
そう言って別のレンズを持ってきた。そしてカメラについていたレンズを外した。
「それ外れるの?知らなかった。」
「そうじゃ、一眼レフカメラはレンズを交換することできるんじゃよ。このレンズも入門用のダブルズームじゃから扱いやすいじゃろ。持っていけ。」
まずはフルオートで撮れる設定にしてもらってファインダーをのぞいた。
シャッターボタンを半押しするとピントが動いてぼやけていた世界がくっきりと見える。周りは黒くって、真ん中だけ映っているので、なんだか世界を切り取ったみたい。さっきおじいちゃんが言っている事がわかる気がした。
「それ持っていけ、お前と同い年のカメラじゃ、仲良くしてやってくれ。」
「え〜、いいの?」
「今じゃもうわしも使わん。よかったらシャッターを切ってやってくれ。」
「ありがとう。」
部屋中のものに向けてはピントを合わせてシャッターを切る。同い年のカメラというのもよかった。なんとなく新しくできた「相方」のようだった。
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