カメラの中
風月(ふげつ)
カメラの中
第1話 米粒
私は人のもみくちゃにされたあとだった
「だめだった〜、もう人がいっぱいだよ。」
そう親友に言うと
「そりゃそうだよね。うちのエースですから。」
そう返される。親友は野球部のマネージャー、様々な雑務を的確に捉え解決するスペシャリストだ。
「言われて行ってみたけれど彼が見えた途端、人がわ〜っとやってきてもみくちゃにされた。撮れたのがこれ。」
親友に言い訳をしたあとスマホの写真を見せた。
「なにこれ、ブレブレな写真ばかりじゃない。」
呆れ顔の親友。
「いやぁ頑張ったんだよ。これでも写真に捉えた方なんだよ。」
「他にはないの?」
「人混みから逃れ、落ち着いて撮ったのがこれ。」
「なにこれ、彼後ろ向いてるじゃない。」
「斜め後ろだし、背番号も写っているからいいと思わない。」
「あなたがそれでいいならいいけれどね。」
「もう一枚あるよ。今度は正面。」
「ちっさ。正面だけれど表情わからないじゃない。」
「人混みから離れるとこんな感じだよ。これでもいつも人混みの向こうの写真ばかりだから嬉しくて。」
「米粒より小さいじゃん」
「うう〜、確かに。でも彼の写真だからいいの。」
「マネージャーという情報網を使ってもそんなものですか。」
「だって人多いしゆっくり写真撮れないよ。」
「また今度撮りやすそうなところがわかったら教えるよ。」
「ありがとう、これは情報料。」
ということで私は親友にプリンを渡す。
「これはこれは…。」
そう言って親友は美味しそうにプリンを食べている。
私が一生懸命撮ろうとしているのは、我が校野球部のエース。小学校中学校と同じだ。小学校の頃は普通に話していたし、普通に遊んでいた。ただ彼は中学になり野球部に入った。初めのうちは坊主をからかっていたけれど、練習が忙しくなって会話は減った。
それでも中3で部活を引退したあとは、同じ高校を目指すということでいっしょに勉強もした。その頃からちょっといいなって思っていた。お互い全く得意分野がかぶらないので、教え合うにはちょうどよかった。たぶん彼の方が頭いいから落ちるときは私だけだろうな、なんて思っていた。
親友は中学から同じだ。親友も同じ高校だったので、落ちるときはいっしょに落ちようと約束した仲だ。彼がうちの高校を目指したのは野球部に強く入部したかったと聞いている。
私たちが入学と共に卒業してしまった憧れの先輩がいたのだ。中学の時に甲子園に出ているのをテレビで見ていっぺんに憧れてしまったようだ。もう卒業してしまって直接いっしょに練習ができるわけではなかったが、やっぱり同じ高校に入りたかったようだ。親友はもともとスポーツはできるけれど、野球部のマネージャーになりひとりで色々こなしている。
私はというと、特に勉強するわけでもなく、部活に力を入れるわけでもなく帰宅部で過ごしている。本が好きなので図書館にいることが多いが、図書館以外で本を読むのが好きだ。夏の暑い日や冬の寒い日はこたえるが、過ごしやすい時期は外の方が気持ちいい。
運動場では彼が練習しているのが見える。親友もマネージャーとしていろいろ動いているようだ。ちょっと皆が一生懸命動いている姿を見て自己嫌悪になる。
「私ってば何しているんだろう?」
なんだかパッとしない自分の青春と彼らのまぶしい青春を比べては暗い気持ちになるだけだった。
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