第102話 日記と決意
13年前、オーメン5歳。その日、彼女は物置部屋で魔法に関する本を探していた。
「うーん。もうちょっと」
高いことろにある本を取ろうとしたときだった。一冊の本が棚から落ちた。その表紙を見ると、『日記』と書かれていた。誰のだろうと思い、中を見る。そこにはこう書かれていた。
4月3日。仲間と共に魔王討伐の旅に出ることになった。これは祖父の代から続く使命だ。実際にその任に着けたことを誇らしく思う。ただ気になることが1つ、今回は異世界から来たという男がいるということ。先代、先々代の通りでは勝てないと判断した王が、どこからか見つけてきたそうだ。この男とうまくやっていけるか、不安である。
ページをめくる。
4月25日。転移者、ワタルとも打ち解け始めた気がする。魔物の討伐も順調だし、俺の代で魔王は討伐したい。
6月7日。四天王のペットを一体倒した。仲間の魔法で魔物の記憶を読んで分かったが、四天王にはそれぞれ一体ペットがいるそうだ。
今回はまだ余裕を持って倒せたが、こいつ以上のものが出てきたらマズいかもしれない。
それと驚くことに、魔物が道具に変化した。どうやら死んだときに、一定の確率で魔道具になるみたいだ。
6月29日。仲間の体調が悪い。この村で
7月5日。体調が一向に良くならない。むしろ悪化している。原因も分からない。ワタルだけが無事なのは、転移者だからだろうか?
7月7日。原因が分かった。ワタルが持っていた黒い魔力だ。俺たちは決断しなくてはならない。仲間と分かれるかどうかを。
7月9日。ワタルを人気のないところへ置いていくことに決まった。この村には巫女がいる。どうやらその家系の者は耐性があるみたいだ。ワタルのことは彼女に任せることにした。
8月3日。再び四天王のペットと戦った。これも魔道具になった。強ければ強い程、魔道具になる確率が高いみたいだ。
今まで集めた魔道具は5つ。今更だけど、魔物が魔道具になることを民が知ったらどうなるんだろう? 面倒な諍いが起こりかねない。俺たちが作ったことにした方が、面倒が少なくて済むかもしれない。
今後は出来るだけ魔物を倒して、魔道具を多く集めよう。世界は平和になれて俺は蒐集できる。win-winだ。
2月10日。ずっと戦いっぱなしで日記を書くのを忘れていた。四天王のペットは全部倒した。魔王のペットは倒し損ねた。だがあの傷で生きているとは思えない。
残っている大物は四天王1人と魔王だけ。集めた魔道具は100を超える。我ながら、よくもまぁここまで集めたものだ。しかし、魔道具が魔物であることは隠しきれなかった。一応口止め料は払ったけど、どうなることやら。
3月30日。四天王は全部倒した。あとは魔王だけ。
約1年。ここまで仲間が死ななかったことは何よりの幸運だ。
明日城に突入する。今日はもう寝よう。
4月2日。魔王を倒した。だが、あいつは魔道具にはならなかった。探知機に反応しない。つまりこいつだけは、魔道具に扮しているだけでまだ死んでいないのだ。
仲間と話し合った結果、後世に託すことにした。俺たちの子孫がこいつを復活させ、今度こそ完全に殺しきってくれることを願う。それまではワタルに預けることにした。魔王は呪いの塊。ワタルならその影響を受けずに保管してくれるだろう。
7月3日。国に帰ってきた。王から報奨金を貰った。ワタルの体質を隠すためにも、彼は死んだことにした。
9月10日。俺が貰った報奨金全部と魔王をワタルに預けた。あいつも仲間だ。旅は途中までしか共にできなかったけど、それでも俺はあいつを頼りにしている。それにあいつだけ報酬がないのは可哀想だ。
11月17日。家に戻ると母親が泣きついてきた。掛け金があるという。その保証人になって欲しいと言ってきた。今まで旅に出て、心配をかけてきた。詫びの意も込めて保証人になることにした。
12月31日。最悪だ。母が死んだ。借金は返済しきれなかった。魔道具を売ったが足りない。利子が高すぎる。
1月4日。悪い噂は何でこんなにも早く広がるんだろう。魔王討伐の名誉すら、借金の不名誉の前では意味をなさないようだ。名誉や栄光が全てのこの国でこうなってしまっては、もう……。いや、もう少しだけ抗ってみよう。
2月3日。入水した。死ねなかった。あの女助けやがって。
4月13日。あの時の女性はルミナスという名だった。話をしたら返済を協力してくれると申し出てくれた。
4月10日。ルミナスと出会って2年。俺は彼女と結婚した。今はもう死のうとは思わない。借金はまだ返せていないが、兎に角前向きに生きていこう。
日記はそこで終わっていた。ページをめくると、そこには家系図が挟んであった。見ると、オーメンは、かつての英雄アルスの子孫であることが分かった。
そうか。私は英雄の子孫だったのか。力場操作の魔法を教わったときに、我が家に受け継がれた魔法があると、父さんは言っていたのはそういうことか。
でも今は、兄さんはあんなんだし、借金は未だ返せていない。だから私の家はこんなに惨めなんだ。
こんなの許せない。報奨金を渡さなければ借金は返せたかもしれない。魔道具があれば名誉を回復させることだって出来たかもしてない。そうすれば、兄の介護を誰かに頼れたかもしれない。こんな理不尽許せない。
決めた。日記にある通り、魔王を再度殺す。それでマイナスをゼロに戻す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます