第100話 死

 オーメンに刺さった剣が引き抜かれる。

「オーメン!」

 ナザトが駆け寄り、治癒魔法をかける。

「ここまで死を意識させたのはお前の先祖くらいなものだ」

「先祖?」

 オーサーが疑問を口にする。

「そうだ。力場操作など、かつての英雄の血脈の者にしか使えなかった。それすら周知されていないとは、栄光や名誉は簡単に風化するものだな」

 それがあいつが魔王を復活させて、1人で倒したかった理由か。

「しかし冷静に見てみれば錚々たる面々だ。オーメン英雄の子孫アマナス転移者の子孫リコ祝福と呪いの子ナザト吾輩の子に育てられた者ヒュースター人になった魔物モンマン魔物になった人リンカー王国の軍隊現時点での最高軍隊。全員でかかってくれば流石の吾輩も死んでいたのになぁ」

「アマナスが転移者の子孫?」

「知らんかったのか? 黒い魔力を始めから持っている者など、魔物か魔道具で召喚された者くらいなものだ。皮肉なものだよなぁ。英雄の話は忘れられ、逆に黒い魔力は不吉などと悪い話は残ってしまう」

 

 オーメンの傷が塞がる。しかし意識はまだ戻らない。

「話が長くなったな。さあ、戦おう」

 魔王は黒い魔力を放出する。力の弱い者はそれだけで、頭痛や吐き気を訴えた。

「残った魔力は5割これだけか。大技はあまり見せてやれないなぁ。残念だ」

 そう言いながら黒い霧を撒く。その霧に触れた木が、みるみるうちに枯れていく。

「全力で守れ!」

 オーサーが喚起する。皆、防御魔法を展開する。しかし魔王はそれを許さない。剣で魔法を切り裂く。

 防御魔法が破られた者は、目や口から血を流し、徐々に皮膚が溶けていく。

「フハハハハ。脆い脆い」

 縦横無尽に駆け回り、一方的に攻撃を仕掛ける。

 

 そしてリコを守っていた魔法が砕かれる。

「リコ!」

 オーサーが叫ぶ。

 しかし、彼女の身には何ともない。

「おお、流石祝福と呪いの子。吾輩の霧が効かないか。だがそれだけだな」

 良かった。リコは無事だ。でもあいつの言う通りだ。リコは訓練をしてない。あいつを倒す術はない。

「嬢、試しに撃ってみるが良い。効いたら褒美にこの霧を止めてやる」

 頼む嬢ちゃん何とかしてくれ。そんな無責任な期待が彼女を襲う。あわあわと動揺する。息が浅く早くなり、心臓がドクドクと脈打つ。

「リコ」

 そこにオーサーが声をかける。

「仮に攻撃が効かなかったとしても、それは今までお前に戦闘をさせてこなかった俺たちの責任だ。お前のせいじゃない。だから、やれる範囲で足掻いて見てくれ」

「……うん」

 リコは覚悟を決めて魔法を構える。

 

 魔王は私を祝福と呪いの子と呼んだ。彼は魔物でありながら治癒の魔法が使える。だったら私も出来るはず。

「ホワイトマジック・ピューリフィケーション」

 白い霧が広がる。その霧は黒い霧を浄化し、枯れた木と血を流した者を復活させた。

「嬢。やりおったな」

 魔王は悔しさを抑えながらも、賛辞を贈る。

 リコは魔法の反動で両膝を着く。手足に力が入らない。無理もない。初めての魔法で、魔王の技を打ち消すほどの出力をしたのだ。

「吾輩の魔法を打ち消したのは賞賛に値するが、吾輩にダメージを与えることは出来なかったな。ならば再び霧を散布するのみよ」

 魔王はニヤリとし、魔法を使用した。

 

 しかし今度はすぐに霧を引っ込めてしまった。

「ん? 魔力切れか?」

 まだ魔力には余裕があるはずだが、と魔王は考えた。

「ならば他の魔法を使うまで」

 魔王はモスキート音を発する。が、これもすぐに止んでしまった。

「可笑しい。何が起こって」

 それを見たオーサーはある疑念を抱いた。

「アマナス! お前なのか⁉」

「バカを言うな。奴は吾輩の贄となったのだ。生きてはおらん。まして魔法を止めるなど。ウッ」

 魔王は胸を抑える。

「オーサーさん。ごめんなさいってオーメンさんに伝えてください」

 アマナスが意識を取り戻た。その声は間違いなく彼のものだった。そして涙を流し、剣で自身の心臓を突き刺す。

 彼はネックレスになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る