第98話 少女無双中

 時は少し遡り、オーメンが最初にモンマンを蹴り落し、立ち去った後。

 これで防御は出来ない。なら、軍の人たちの攻撃は通る。それでも苦戦するんだっけ? 全く手が焼ける。

 彼女は土人形の頭部に登る。

「オーメンさん。あの個体は?」

「2人に任せます」

「大丈夫なのですか?」

「何とかするでしょう。それより、あの群れです。最初の不意打ち以外、まともに攻撃出来ていないようですが?」

「不甲斐ありません」

「まああの魔物は強いので仕方ありません。私がやるので皆さんは支援と防御を頼みます」

「承知いたしました。皆の者! オーメンさんに支援魔法を!」

 軍の者たちは彼女に、魔法効果向上と魔力消費量現象の魔法をかける。

「いいですね。力が湧いてきます」

 土人形の頭部から、腕の形の人形を2本生やし手を合わせる。

嵐刃らんじん

 合わせた手の間から、空気と水を圧縮し、超高圧の状態で噴出させる。それは刃の如き切れ味だ。一周させて、手の高さにいた魔物7体を切り裂いた。

 その摩擦で腕の土人形は壊れた。


「規格外だ」

 軍の者は驚きを隠せない。

「今から雷撃を撃つので感電しないように、各々守ってください」

 軍隊は慌てて防御魔法を貼る。

「この湿った空気の中、お前たちは逃げられない。紫電」

 紫に見えるほどの高エネルギーの放電。5体の魔物を焼き切った。

「だいたい半分ですね」

 可笑しい。魔道具の反応は2つだった。1つは叩き落した魔物の分。もう1つは一番後ろあの魔物から感じるけど、使ってこない。死後発動するタイプか? あいつは一旦後にした方が良いな。

「あいつ以外はこれで終わらせよう」

 オーメンは人差し指を立てる。

紫電青火しでんせいか

 立てた人差し指から紫の雷を360度に放ち、その外周を、プラズマが発生するほどの高音の火球で囲う。火球を回転させ逃げ場を塞ぐ。

「あれはナザトさんの」

 アマナスが驚く。

「上位互換です」

 殆どが焼け死んだ。残るは3体。

 あの個体の近くにいた魔物は残しちゃったか。まあいい。あとは範囲の狭い攻撃で一体一体潰していこう。


 そのとき下からモンマンがやって来る。

「グァー!」

 雄たけびを上げ、彼女に立ち向かう。しかし軽く流される。

「あなたは人間ですよね? なぜ邪魔をするんです?」

 モンマンは無視して戦う。

「今度は手加減しませんよ」

 彼女は氷の槍を作り、それを放つ。

 モンマンは避ける。が、通り過ぎた槍が破裂して周囲に飛び散る。

「ガッ」

 飛び散った氷が魔物の群れに突き刺さった。

「あと3体なんです。邪魔しないでください」

 オーメンは拳に魔力を込めて魔物に殴りかかる。モンマンは魔物を庇った。彼は地面に叩き落される。

「さて、さっきの氷で弱ったし、あとは首を刈って終わらせよう」

 魔力を刀状に固める。

「力場操作」

 高速で飛行し、3体の首を刈る。

 彼女は例の個体が魔道具をしっかりと目視する。その死体から剣が出てくる。

「あれは」

 その剣は、かつてアマナスが一度手に取り、力を暴走させるに至った物だった。

「食べてたのか」

 

 剣の回収のため地に降りる。横には魔物の死体。

 これが原因で力が増した。だから魔物を従えていたのか。さて、どう回収したものか。

 そう考えていると、横の魔物の死体が融けキーホルダー魔道具になった。

 よかった。これで無駄足にならずに済む。そう思いながらキーホルダーを手に取る。瞬間、彼女は歓喜した。

「はは。やっと」

 そこにアマナスとオーサーがやって来る。

 アマナスは剣を見て言葉を失う。そんなアマナスをよそにオーサーは話しかける。

「それ魔道具か。よかったな」

「ええ。本当に」

 彼女はアマナスの方を見る。彼は動揺している。

「ねえアマナス君」

「あっ、はい」

「君は前に、恩を返したいって言ってたよね?」

「はい。既に返してもらっているとも」

「前言撤回。今返してもらうよ」

 彼女は魔道具を右手に持ち、左手でアマナスの頭を掴む。

 アマナスのネックレスが黒い光を放つ。

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