第97話 人足らしめているもの

 リンカー王国外、西側の森付近。竜型の魔物の群が闊歩かっぽする。

「合同魔法1の型放て!」

 最初から全開だ。大量の氷を生成し、その直後に炎を放って爆発させる。

 大半の魔物は上空に飛び立ったため、3体しか倒せなかった。

「合同魔法2の型放て!」

「土偶」

 大型の土人形を作り、その頭上に乗り距離を詰める。そして土人形の両手を挙げ、掌から火柱を放つ。それを防御魔法で防いだ。

「バカな! 魔物は黒魔法以外使えないはず!」

 一体の魔物がギロリとこちらを睨んだ。

「あいつだ! あいつがやったんだ! あいつを狙え!」

 軍隊はその個体を狙って魔法を集中砲火する。しかしそいつは高速で飛び回り避ける。その間も魔物の群れは魔法を撃ってくる。軍隊の三分の一は防御魔法に徹する。

 

 それを横目にオーメンはナザトとヒュースターに話しかける。

「ナザト、ヒュースターさん。あれが人間です。私が分断しますので着いてきてください」

 オーメンは両手を差し出す。2人がその手を握ると彼女は魔法を使う。

「力場操作」

 フワリと浮かぶ。

「スゲー。飛んでる」

「両手が塞がった状態で、戦えるのですか?」

「撃ち落とすだけだから大丈夫です。しっかり掴まってくださいね」

 彼女はビュンと上空へ飛び、そこからかの個体を目掛け急降下。飛び蹴りを食らわせた。そのまま地面へ叩きつける。

 魔物はグァと喘ぐ。

「じゃあ後は頼みます」

 オーメンは颯爽と退く。

 

「滅茶苦茶だ! あいつ!」

 ナザトが文句を言うのを他所に、ヒュースターは魔物をじっと見ていた。

 そして起き上がった魔物と目が合う。

 互いに何と声をかけたものか分からず、黙ってしまう。

「おいお前。名前は何という」

 ナザトが空気を切り裂く。

「いや魔物は喋らないでしょ」

 ヒュースターがツッコミを入れるが、それは覆された。

「私はモンマン。人間だ」

「喋るのかよ」

「人間というが、見た目は竜の魔物だぞ」

「では人を人足らしめているものとは何だと思うかね? お嬢ちゃん」

 ナザトはインゴクニートのことを思い返していた。

「分からない。多分オレは、人間と魔物の違いを知りたいから旅をしてるんだと思う」

「そうか。では参考までに、私が考える定義を話そう」

 ナザトは真剣な面持ちになる。

「愛情だよ。愛情こそが人を人足らしめているんだ」

「では何を以て、愛があると推定できる?」

 ヒュースターが問う。

「仲間や家族を大切に思う気持ちこそが愛であり、人足らしめている」

「たとえそれが障害を持っていてもか?」

「そうだ。生きてくれるだけで活力になる」

「だからあの魔物を守ったのか?」

「当然。……だが」

 モンマンは少し苦しそうな表情をする。

「魔物になってから、脳が魔物になっていくのが分かる。徐々に失われていく。私はそれが恐ろしい」

 それを聞いたヒュースターは、どこかもの悲しそうな表情をする。

「そうだな。俺もその感覚は分かる。人間になっておよそ18年。人間を愛したことはないが、それでもこの生活に心地よさを感じている。魔物のころからは考えられない」


「なあモンマン。人間に戻れるなら戻りたいか?」

「出来るのならね」

「じゃあ戻してやる」

 ナザトは魔道具を取り出す。

「これは魔道具とその影響にあるものを、元に戻す魔道具。これならあんたは人間に戻れる」

 彼は逡巡する。そして口をギュッと結びこう言う。

「この戦いが終わってからにして欲しい」

「今すぐじゃなくていいのか?」

「人間が勝つにしろ魔物が勝つにしろ、この戦いの間くらいは彼らの家族でいたいんだ」

「分かった」

 モンマンは飛び立った。


 上空では魔物がオーメンに狩られていた。

「グァー!」

 雄たけびを上げ、彼女に立ち向かう。しかし軽く流される。

 クソッ。何なんだこの人は⁉

「あなたは人間ですよね? なぜ邪魔をするんです?」

 モンマンは無視して戦う。

「今度は手加減しませんよ」

 彼女は氷の槍を作り、それを放つ。

 モンマンは避ける。が、通り過ぎた槍が破裂して周囲に飛び散る。

「ガッ」

 飛び散った氷が魔物の群れに突き刺さった。

 刺さっていたら死んでいた。この人、本気だ。そして私では勝てない。ならばせめて一体でも多く守ろう。

「あと3体なんです。邪魔しないでください」

 オーメンは拳に魔力を込めて魔物に殴りかかる。モンマンは魔物を庇った。彼は地面に叩き落される。

 負けた。全滅する。まあでも、最後に人間らしいことができて良かった。

 意識が失われつつある中、最後まで彼は家族のことを思った。それは紛れもなく"人間"の思考である。

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