第96話 挨拶

「ただいまー」

「おう。お帰りー」

「なんでオーサーとアマナス君がいるの? ここ女子部屋なんだけど」

「連絡があるんだよ」

「はぁ、聞きましょう」

「国の西側で30体ほどの魔物の群れが発見された」

「群れが⁉」

「ねぇ、群れだとおかしいの?」

 リコが問う。

「普通魔物は群れない。かつて魔王が居た頃は、魔王が力で従わせていたこともあったけど、そんなのは何百年も前の話」

「ならなんで群れているの?」

「誰かが操っていると考えるのが無難だろうね」

「誰かって?」

「そこまではまだ分からないよ」

「話を続けてもいいか?」

「ごめん。戻して」

「魔物がこの国に来るのは早くて3日後だそうだ。国の軍が対応するわけだが、俺とアマナスは参加することにした。お前たちもどうだ?」

「それ、メリットないでしょ?」

「情報じゃ、1体相手にするのも手こずるらしい。それだけの強さの魔物が群れを成してる。であれば、1体くらいは魔道具になる奴がいても可笑しくはないだろう?」

「……。明日、魔物の様子を見に行きます。そこで可能性があると判断したら参加します」

「了解。アマナス戻るぞ」

 男衆は部屋を出た。


 翌日。朝食を食べ終わったオーメンは西へ向かった。

 成程。これは確かに強い。インゴクニートさん程ではないけど、これなら確かに1体は魔道具になってくれそうだね。それに、既に魔道具の反応が2つ。まぁ私がいれば勝てるだろうけど。

 あとは軍の強さが気になるな。ちょっと確認するか。

 オーメンはリンカー王国に引き返す。


 オーメンは王国軍の駐屯地に舞い降りる。

「やあやあ皆様。手合わせ願いたく」

「何者だ貴様!」

「ただの侵入者ですよ」

「ならば手加減はしないぞ」

「そうしてください。私は加減しますが」

「舐めるなぁ」

 兵士は火炎球を放つ。オーメンは水の球でそれを打ち消す。蒸気が辺りを包む。視界が悪くなったが、オーメンは魔力を察知し兵士に雷撃を当てる。

 身体強化の魔法を使いスピードを上げて、一人一人処理していく。

「うっ」

「慌てるな! 防御魔法を展開し、自分の魔力は抑えて、相手の魔力を探知するんだ!」

「抑え方が甘いですよ」

 オーメンは自身の手を防御魔法で覆う。そして相手の防御魔法を砕き、そのまま顎を殴る。今回のそれはエベダに使ったものと違い、ちゃんと固いものだが、強化した拳よりは柔らかい。彼女にとっては手加減なのである。

「次」

 彼女の進撃は止まらない。視界が開けるまでの20秒間、一方的に攻め立てた。

「この場にいるのは貴方が最後です」

 兵士は怯えている。しかし退かない。防御魔法を三重に展開する。

「防御が薄いのは分かりました。増援を待ちます。今度はそっちが攻めてくださいね」

 ニコッと笑顔を浮かべる。


 その横から雷撃が放たれる。

「ナイス奇襲です」

 きっちりと防ぎ、賞賛する。

「合同魔法1の型、放て!」

「「「氷炎」」」

 三人がかりで大量の氷を作る。

「なかなかの物量ですが、これぐらい余裕で防げますよ」

「点火!」

 今度は超高温の火炎球を放ち熱膨張を起こす。

 ドゴォンと爆発音がする。

「まったく。私が守らなければ、基地ごと吹っ飛んでましたよ」

 兵士たちが展開した防御魔法は砕かれていた。しかしオーメンの魔法はヒビすら入っていない。オーメンは爆風が外に行かないよう、防御魔法を貼っていた。それだけではない。彼女自身とこの場にいた兵士全員をそれぞれ守った。

「貴様は何が目的なんだ?」

「偵察ですよ。此度の魔物の群れにどれだけ対抗できるのか、私の目で確かめたかったんです」

「なぜその情報を知っている?」

「同行者から聞きましたので」

「その同行者とはオーサー殿か?」

「そうですが?」

「ならば初めからおっしゃってください」


 彼女は基地の中に案内される。

「やっぱお前だったか」

 オーサーが椅子に座っていた。

「なんでいるんですか」

「協定の提案をしに来たんだよ」

「そうでしたか」

「お知り合いですか?」

「旅の仲間です」

「ということは、貴女がオーメンさん!?」

「そんなに驚きますか?」

「オーサーさんと妻から聞き及んでいましたから」

「妻……。あー、もしかしてヒュースターさんとエベダさんの?」

「そうです。オーサーさんから名前を聞いた時、会えるのなら直接お礼を申し上げようと思っていましたが……」

「幻滅させてしまいましたか」

「いえ、味方になるのなら心強いです」


 挨拶を済ませ2人は宿に戻る。すると受付に声をかけられる。

「お客様がお見えです」

「分かりました」

 戸を開ける。

「よぉ」

 ヒュースターがいた。

「この国に来てから、部屋を分けた意味を感じなくなってきました」

「そういうな。特報だ」

「何ですか?」

「魔物の中に俺と同じ奴がいる」

「なぜ言い切れるのですか?」

「同じ魔道具を使ったからかな。共鳴したんだよ」

「人になった魔物と魔物になった人ってことか?」

 ナザトが問う。

「そうだ。そして奴もきっと、人に戻りたがってる」

「そこまで分かるものなんですか?」

「これに関しては俺を信じろとしか」

「分かりました。ではこうしましょう。その元人間を分断して、ナザトとヒュースターさんで話し合い、魔道具を使って人間に戻す」

「了解」


 そして日が明ける。

 国に到着する前に魔物の群を処理するため、軍とオーメンたちは西へ向かった。

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