人間転生編

第92話 家族愛好計画

「それでナザトさん。その魔道具の効果なんですけど」

「魔道具と、その影響を受けたものを元に戻すものだよ」

「高位の魔物だっただけはありますね」

「やろうと思えば、真相を世界に知らしめることもできる。流石母さんだ」

「やったら駄目ですよ」

「やらねーよ。人間社会に絶望するまでは」

 そんな会話をしながら5人山を抜けた。


 リンカー王国。

 そこに入国すると早速、オーメンが魔道具の反応があると言い出した。

「ということは、また中期的に滞在する感じですかね?」

「魔道具次第だよ」

「とりあえず宿を探してからにしてください。チャックインしたら自由にしていいですから」

 アマナスは少し呆れたように言う。

 そして宿を見つけた五人は別行動を始める。

「じゃあ私は魔道具探すから」

「忙しないな。それで、オレたちはどうする?」

「俺は執筆に専念するわ」

「私はアマナス兄と部屋でご本読むよ」

「じゃあオレはこの国を散歩しよーかな。人間がどんな風に暮らしてるのか知りたい」

 

 ナザトは国を練り歩く。服屋、レストラン、食料品店、靴屋、本屋、酒場、病院、城etc。

 色んな店があるな。確かこの"お金"を使うんだったよな。いい時間だし。何か食うか。

 彼女はレストランに入った。しかし彼女はそこである問題に直面する。そう。文字が読めないのだ。

 なんて書いてあるんだー? 全く分からねーぞ、と頭を抱えていると男が向かいの席に座り、声をかけた。

「君、大丈夫かい? 困っているなら手を貸そうか?」

「助かるぜ。実は文字が読めなくて困ってたんだ」

「そうかい。何か食べたいものある?」

「肉が食べたい」

 男はふむふむと相槌を打ちながら、ページをめくる。

「肉料理ならこのページにのってるね。どの肉が食べたい?」

「鹿か羊!」

「鹿はないけど、羊ならあるね。ラムチョップでいいかな?」

「それで頼む」

「すみませーん。ラムチョップとハンバーグをお願いします」


 2人は昼食を食べ終わった。

「メニュー読んでくれてありがとう。お礼に奢るよ」

「どういたしまして。でもお金はちゃんと自分で払うよ。それよりも、君が持ってる魔道具を使わせてもらえないかな?」

「!!」

「驚かせてすまないね。オーメンから君のことを聞いていたんだよ」

「何者だ?」

「先に会計を済ませよう」


 2人は会計を済ませ、裏路地に向かった。

「自己紹介がまだだったね。俺はヒュースター。元魔物だ」

「魔物⁉ オレが埋めた魔道具以外にも、魔物を人間に変えるものがあるのか⁉」

「厳密には違うがね。死んだ後に別の種族に転生させるものだ」

「そんなものが」

「俺の頼みは1つ。その魔道具を使って、俺を元の魔物に戻してほしい」

 それを受けてナザトは少し考える。

「転生ってことは、人間の親はいるんだよな?」

「いるが、どうした?」

「じゃあ駄目だ」

「どうして?」

「元魔物でもなんでも、家族がいなくなったら悲しむんだぞ」

「は? 知るかよ」

 え? なんで? 人間になったのに、家族が大切じゃないの?

「黙ってないでさっさと使えよ。俺は一刻でも早く戻りたいんだ」

 ヒュースターはナザトの肩を掴む。

「離せ!」

 彼女は抵抗する。

「魔道具使うだけでいいから」

 あわや殴り合いに発展するかという時だった。ヒュースターに雷撃が当たる。


「何も無かったんですけど」

 ナザトは声の方を振り向く。

「オーメン!」

「やあ、ヒュースターとは会えたみたいだね」

「なぜ俺を攻撃した?」

 ヒュースターは痺れて動けない状態で喋る。

「女の子を襲ってたら止めなきゃでしょ」

「ちょっと話し合いがヒートアップしてただけだ」

「なんでもいいですけど、貴方が死んだ場所に行っても、魔道具は在りませんでしたよ」

「なら誰かが先に回収したんじゃねーの?」

「そうですか。残念です」

 オーメンはナザトを連れてその場を立ち去ろうとした。その後ろからヒュースターが叫ぶ。

「なあおい! 待てや! 魔道具を置いてけよ!」


 2人は宿に戻る。

「お帰りー。ヒュースターとは会えたかー?」

 オーサーが出迎える。

「無事会えたけど、皆にとって不毛な出会いだったよ」

 オーメンが答える。

「何でオーサーがアイツの事知ってんだ?」

 ナザトが聞く。

「あいつ、こっちに来たんだよ。オーメンが教えたらしい」

「宿がばれてるならまた来そうだな。なあ他のとこ探そうぜ」

「無茶言わないでください。宿屋だってただじゃないんですよ」

「だったら、あいつが来たら対応してくれよな」

「はいはい」


 翌朝。

 女子部屋に客が来たと、宿屋の従業員が伝える。扉を開けると、やはりそこにはヒュースターがいた。

「昨日は失礼した。俺もちょっと焦ってたんだ」

「お引き取りください」

 オーメンが帰るように促す。

「待ってくれよ。昨日とは別件なんだ」

「別件?」

「そうだ。魔道具が使えないというなら、俺が家族を好きになれるように手伝ってほしい」

「……。入ってください」


「話した通り俺は魔物だ」

「転生しなければ魔道具になってくれたかもしれないと思うと残念です」

「それはともかく、転生してから人間として生まれ、人間として、人間に育てられた。しかし俺は家族を好きにはなれない」

「同じ魔物でも母さんとは正反対だ」

「使った魔道具が違うんだ。当然だろ?」

 それに対し、リコが質問する。

「でもお兄さんは家族を好きになろうと思ったんだよね? どうして?」

「普通なら暴力で言い聞かせるんだけどね」

 オーメンをチラッと見る。

「そこの女には勝てん。負け戦はしない。だったらせめて、今の状況を受け入れられるように最善を尽くす方がいい」

「分かった。そういうことならオレは手伝うぜ」

 私もとリコが賛同する。

「私はまだ魔道具の探索をしたいのでパスします」

 オーメンは協力しなかった。

「えー。そこはお前も協力する流れだろー」

 ナザトはオーメンの背中に引っ付く。

「私の旅の目的は魔道具です。優先順位というものがあるのですよ」

 彼女はナザトを引っぺがす。

「じゃあ頑張ってください」

 そう言ってオーメンは部屋を出た。


「しゃーない。オレたちだけで考えるか」

「おー」

 2人はヒュースターが家族を好きになる方法を考える。

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