第83話 肯定
翌朝。
「約束通り来たぜ」
「お待ちしておりました」
「性反転が起ってから数日経ったからか、店も落ち着いたようだな」
「楽しかったですけどね」
「そうか」
「さて、どのようなお洋服がお好みですか?」
「派手じゃなけりゃ特に拘りはねー。そっちに任せる」
「さようでございますか」
アニマはオーサーの全身を捉え、少し考えた後こう言った。
「お客様が性反転する前の写真はございますか?」
「いや、無いよ」
「さようでございますか。でしたら元の顔立ちと体型をお教え願えますか?」
「輪郭はシャープで、切れ長の目、鼻は普通の高さ、口は薄い。体型は今とほぼ変わらない」
「ありがとうございます。お客様はクール系の顔立ちで、スラっとしていらっしゃいますので、白と黒でシックに決めてみましょうか」
「頼む」
アニマはハンガーから服をセットで持ってくる。
「こちらの、黒と青のフラワーモチーフに箔プリントを重ねた白のシャツに、黒のスラックスを合わせるのはいかがでしょうか。靴はクロノ厚底グラディエーターサンダルにするとお洒落ですよ」
「へー。なかなか格好いいじゃん。他には」
「グレーで統一したこちらのファッションもおすすめですよ」
緑寄りのグレーのTシャツと、やや白に近い灰色のガーゴパンツを見せる。
「同じグレーでも、濃さを変えると違う色に見えるもんなんだな」
「単色では地味すぎますし、多すぎても纏まりがありません。基本の一色と、それに近い色を二色程度いれるのがいいんですよ」
「へー。てか、信じた通りズボンを選んでくれて安心したよ」
「男に戻っても着てほしかったので」
「だから元の顔立ちと体型を聞いたのか。そういうことなら、お前が男だった時の写真とかはないのかよ」
アニマは一瞬口をギュッと結んだ。
「……実家に行けばあるかもしれません」
「そうか。悪い。会計頼むわ」
「お会計3万4千円です」
「二着とはいえ、そこそこ値段するなー」
「高い物はもっと高いですよ」
「恐ろしいもんだ」
オーサーは一度荷物を置きに戻る。
さて、あいつがどんな顔してたのかを確認しに行くか。
翌日。
今日はちょっと長くなる。喫茶店で待ってる。とだけ伝えた。
終業後。
「お待たせしました」
「いや、今来たとこ」
アニマはいつものを注文する。
「それで何のお話ですか?」
「昨日さ、買い物のあとお前の実家に行ったよ」
「! 何でっ! 何で行ったのよ⁉」
「今のお前を肯定するのに必要だと思ったからだ」
「意味が分からない!」
「とりあえず聞け」
「ことによっては、服屋を出禁にしますからね」
「俺は取材と称して写真を見て、話を聞いたよ。そんで分かったんだけどよ。5歳以降、笑顔の写真がなかった」
「ッ」
「子供を操り人形か何かだと思ってるのが、話の節々から察せられた。あんな環境にいたんじゃ、出たくもなるよな」
「同情ですか?」
アニマは少し声に力を入れる。
「同調だ。お前はあの環境の中でも折れなかった。魔道具探しが失敗に終わっても、自分なりに社会と折り合いをつけようと、服屋で働いた。そんで魔道具を使ってからお前は笑えるようになったじゃないか」
「ッ」
「お前のやったことは人に迷惑をかけるものだったが、それでもお前が幸福になれたなら、きっと正しい」
アニマの目には涙が浮かんだ。自分が行ったことは、到底肯定されるものではない。しかしそれでもオーサーは違った。それが本心かはともかく、自分の罪すらも肯定されたと感じた。それならば自分はこの人の業を肯定し返すべきだと思った。
煙が立ち込める。オーサーを激痛が襲う。
「くッ」
ポキポキと音を立て骨格が男のものになる。そして煙が晴れ、男のオーサーがアニマの前に姿を現す。
オーサーの顔を見たアニマは微笑み、こう言った。
「お話の通り、端正な顔立ちですわね」
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