TS編

第75話 チェーンジ

 夜が明けた。

「アマナス君。起きて」

「……」

「大変なことになってるの。起きて」

「んー」

「しょうがない」

 軽い雷撃を当てて起こす。

「うわー!」

 アマナスは飛び起きる。

「おはよう」

「おはようございます。って、あれ?」

 彼は自分の声が高くなっていることに気が付いた。そして水面に映る自分の姿を確認する。

「なんじゃこりゃー!」

 そう。彼は女になっていた。

「オオオオーメンさん。これって」

「魔道具のせいだね」

「そんなー」

「まあ落ち着けよ。俺も女だ」

「 ~~」

 声にならない声を出す。

「しかし男だけか。何故だ?」

「それを確認しに向かってるよ。幸い、竜宮城に行く前に進んでた方向だよ」

「なんで2人ともそんなに冷静なんですか? リコちゃんなんてさっきからポカンとしてますよ」

「何事も経験だし」

「性別でその人の価値は決まらないし」

 オーサーとオーメンは達観していた。

「クソッ、次元が違う」

「生きてりゃそのうち分かるさ」

 アマナスはイラっとする。

「それよりも陸地が見えてきたよ。アンカーの準備して」


 陸地に着いた。しばらく進むと小さな村があった。

 村に入ると、そこは混乱の最中だった。

「神様、俺のモノを返してくれよー」

「声が低くて気持ち悪いー」

「なんでお前は変わってないんだよ」

「知らないわよ」

 など、怒声や悲痛な叫びが聞こえる。

「うわー。混乱してんなー」

「そりゃそうですよ。性別が変わればこうもなります」

「でも落ち着いている人もいるはずだよ。そういう人を探そう」

 村を歩いていると、こんな状況でも開店している喫茶店があった。


「いらっしゃい」

 ハードボイルドな男性が迎えてくれた。店には女性客が1人いた。

「紅茶を4つお願いします」

 オーメンが注文をする。

「あいよ」

「少しお話聞いてもいいですか?」

「村に起きたことかい?」

「お察しの通りです」

「俺もさっぱり分からん。今朝目覚めたら、村中大騒ぎよ。俺の家族には何の変化もなかったがな」

「それは幸いでしたね。変わった人とそうでない人の違いって、何ですかね?」

「見た限りじゃ、子どもは変わってなかったな」

 紅茶が出来上がった。

 一口飲んでからオーメンは続ける。

「なら、これをやった犯人って誰だと思いますか?」

「さあな」

 一瞬視線が逸れたのをオーメンは見逃さなかった。

「そうですか」

 

 オーメンは席を立ち、先客に声をかける。

「愉しいですか? 今の状況は?」

「え? 何のことですか?」

「とぼけないでください。女性になりたくて、魔道具を使ったんですよね? 村を巻き込んで」

「違う! 巻き込むつもりはなかった! ……あ」

「墓穴を掘りましたね」

「ッ!」

「すごいですねオーメンさん。どうやって気づいたんですか?」

「ただのハッタリだよ」

「え?」

「勿論候補は絞ったけどね」

「候補って?」

「まず、性転換した人とそうでない人がいるわけだけど、犯人がどっちなのかは関係ない」

「どうして関係ないんですか?」

「大事なのは服装と態度だよ。犯人が性転換した場合、服の性別の人間の性別が違う。犯人が性転換していない場合、服と人間の性別は一致している」

「それだけじゃ、絞れないと思いますけど」

「次が大事なのさ。態度について。どちらにしても犯人は冷静なままでいられるし、服と体の性を一致させられる。だって性別が変わることが分かっていたから」

「冷静な人なら店長も当てはまりますけど」

「そうだね。だから私も店長かとも思ったけど、さっきの質問をしたとき視線がこの人に向いた。だから最初はこっちの人から聞こうと思ったの」

「それじゃあ、女性になりたくて魔道具を使ったっていうのは?」

「女装した人がこの魔道具を使うなら、きっとこんな理由かなって思っただけ」

「お見事ね。オーメンさん。それで、私をどうするの?」

「どうもしません。魔道具を回収出来たらそれでいいです」

「あと俺たちの体を戻してください」

「嫌よ。あれは私にとって希望だもの」

「お話聞かせてもらっても?」

「話したら引き上げてくれる?」

「もちろん」

 オーメンはニヤァと笑う。

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