竜宮城編

第68話 竜宮城

 シルバークリークを出たアマナス達は、手漕ぎボートに乗り河口を渡っていた。

「お姉ちゃん。気持ち悪い」

 リコが早々に船酔いした。

「え、もう!? 困ったな。酔い止めの薬は最低限しか買ってないし……。あと1時間くらいなんだけど、我慢出来そう?」

「あんまり揺れなければ大丈夫なんだけど」

 そう。この日は波が荒かった。船出出来るギリギリのラインと言えるほどに。

「うーん。気持ち悪……くなくなった」

「!」

 3人は驚いた。しかしオーメンは、2人とは違うものに反応した。

「魔道具だ」

「本当ですか?」

「微弱だけど、左の方から反応がある」

 

 アマナスとオーサーは船を左へ旋回させる。

「少し弱まった。ちょっと戻って」

 船を後退させる。

「ここ。ここが1番強い」

「何にもありませんよ」

 とアマナスが。

「でも探知機は反応してる」

「なら視点を変えようぜ」

 とオーサーが提案する。

「視点を?」

 アマナスはしっくりきていない。

「前後左右に何も無い。ならば上下はどうだ?」

「まさか水中に!?」

 アマナスは驚く。一方オーメンは冷静になまま、魔道具を水中に入れてみる。

「うん。反応は強くなった。この下で間違いない」

「結構深そうですけど、どうするんですか?」

 アマナスは問い、オーサーはオーメンを見るように顎をクイとする。

「泡を作る」

「泡でどうにかなるんですか?」

「大きな泡を作って、その中の空気を吸って潜ろう」

「どうやって作るってんだ?」

 オーサーは呆れたように言う。

「私の魔法でちょちょいのちょいよ」

 そう言って彼女はドロッとした液体を出した。

「うわー、何これスゴーイ」

 リコは喜ぶ。

「水魔法。成分を弄ったから、水というより樹脂だね」

「お前のその器用さは何なんだよ。ちょっと引くわ」

「メルリン学園史上最高の天才だからね」

「あの世界一の魔法学園のトップか。そりゃ凄いわ。で、これどうすんの?」

「オールをつかって、空気を巻き込むように大きく混ぜると」

「大っきな泡ができた!」

 リコは目を輝かせる。

「これを4人分作ればok」


 4人分が作り終わった。

「完成したね。これを被って潜るわけだけど、酸素に余裕はないから、あんまり喋らないようにね」

 リコとアマナスは「はーい」と答える。しかしオーサーは疑問があるようだ。

「これを被るってことだけどよ、溶けない?」

「溶けなぁい」

「そうか。ならアンカー止めて潜るか」

 4人は海に潜る。

 シルバークリークからさほど遠くないだけあって、魚が多い。銀の鱗が日光を反射し、水中でも眩しい。

 綺麗だ。一匹一匹は、特別大きいわけじゃないけど、群れることで銀の球みたいになってる。こうやって敵から身を守っているんだ。生命の強さの一端を垣間見た気がする。


 10分ほどが経過した。すると大きな建物が見えてきた。

「オーメンさん。あれは?」

「あそこに向かおう。反応が強まってる」

 4人は建物の方へ泳いだ。

 建物は膜に覆われていた。

「大きな城ですね」

「とりあえず海底に足をつけよう。上から入ったら真っ逆さまだ」

 4人は海底に着いた。

「よし、入ろう」

 

 オーメンが声かけをする。3人が恐る恐る膜に手を触れる中、リコは思いっきり飛び込んだ。

「リコちゃん⁉」

 3人も急いで膜の中に入る。

 リコはそのまま泡を外す。

「~~!」

 オーサーは青ざめる。

「んー。空気が美味しい」

 リコは平然としている。

「リコちゃん。今回は大丈夫そうだけど、空気が汚れている可能性もあるから、いきなり泡は外さないようにね」

 オーメンが優しく注意する。

「ごめんなさい」

「いいよ。それより」

 オーメンは周囲の目線を気にする。

「こんなところに人がいるとは思わなかった」

 城の周りには家が点々と存在しており、住民は皆子どもだった。

 「こんにちは。ちょっとお話を聞きたいんだけど」

 オーメンは明るく話しかけた。

「お姉ちゃんたち、誰?」

 子どもの中で一番大きな子が質問してきた。

「私たちは探し物をしているの。ここにそれがあると分かったから、潜ってきたんだ」

 オーメンは笑顔のまま答える。

「お姉ちゃんたちも竜宮城を探しに来たの?」

「竜宮城?」

「あれ? 違うの?」

「それとは違うけど、竜宮城の話も気になるなー。お姉さんに教えてくれるかな?」

「ここは竜宮城。外よりもゆっくり時間が流れるの。長生きしたい人にとっての理想郷だよ」

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