第65話 テクニック
翌日。ジレマとドランカードは昨日と同じ時間に宿へ来た。
「おはようございます。どうなりました?」
「お互いに頑張ろうと励まし合いました」
ジレマがまず話す。次にドランカードが報告する。
「魔道具のお陰で昨日はなんとか寝れたよ。ありがとう」
「衝突がなくて安心しました。今日は、辛くなった時の乗り越え方についてお話したくて来ていただきました」
「俺は魔道具でどうにかなるから不要だろ?」
ドランカードが問う。
「それは違います。魔道具に依存しないためにも、辛いときの乗り越え方は必要になります」
「それが代替行動というものではないのですか?」
今度はジレマが聞く。
「それももちろん方法ですが、手段は多い程よいです」
「どんなものがあるんだ?」
「ドランカードさんには1つテクニックを紹介します。イメージ療法です。効果は強いのですが、辛すぎるときにやるにはハードルが高いものなので、途中で気持ち悪くなったら中断してください」
「詳しく」
「1ネガティブな感情がどこにあるのか想像します。このときに、色だけでなく大きさや温度も考えてください。2それを一度外に出します。重さ、手触り、固さも考えます。3それと会話し、撫でます。このときに大事なのはアドバイスではなく、共感と受容です。4気が楽になるまで続けます。5最後に、外に出した感情が戻りたいか聞きます。戻りたいと言ってきたら「これからもよろしくね」などと言って戻します。戻りたくないと言ってきたら野に返します。3~5分で大体よくなります。」
「大分工程が多いな」
「時間もかかりますし、想像力も必要なので疲れます。その分効果は大きいですけどね」
「ありがとう。しんどくなったらやってみるよ」
「ジレマさんにもテクニックを教えます。人形を使ったエンプティチェアです。これは自分の中にある"気づき"や"答え"を引き出すために行うものです」
「気づきや答えですか?」
「これらは上手く言葉に出来ないだけで、自分の中にあることが多いんです。それを言語化するための方法です」
「やり方を教えてください」
「1顔が分かる人形を用意します。2紙に悩みを1つだけ書きます。3紙と一緒に人形を自分の前の椅子に置きます。このとき紙は自分が読める向きでおいてください。人形が相談を紙に書いて持ち掛けてきたイメージです。4第三者目線で質問やアドバイスをします。ちゃんと声に出してくださいね。あと、質問をするときは人形の方へ移動するか、人形を手に持ってください。質問者と回答者を演じ分けるんです」
「結構簡単そうですね」
「そうでもないですよ」
「というと?」
「人は例え人形や絵であっても、こちらに視線を送っているものを見ると気を張るんです。それくらい目というのは大きい存在なんです。今まで他人に本心を話してこなかった人が、人形とはいえ目があるものに本心を言うのは簡単ではありません」
「なるほど」
「まあとにかく、実際にやってみないことには始まりません。お二人とも、今日試しにやってみてください」
夜。
ドランカードとジレマはそれぞれ、教わったことを実戦することにした。
ドランカードサイド。
まずはネガティブな感情の場所と色、大きさ、温度を考えるんだったな。
「場所は頭。色は赤色。大きさは半径25㎝の球体。温度は大体40℃」
次はそれを外に出して。
「重さは500g、手触りはさらさらしてるがシュワシュワしてる。固さは柔らかい」
それを撫でながら会話だっけ。
「不安だよな。魔道具で多少落ち着いてるが、飲みてー気持ちまでは無くならねーもんな。これって魔道具なしだと、きっとイライラしてたってことだもんな。それに本当に禁酒できるか分かんねーし。とはいえ、やるって言った以上、取り消すわけにもいかねーもんな。そうだよ。本当は酒なんてやめたかった。失敗してばかりだし、息子にも迷惑をかけた。でも止めなきゃと思うほど、それがストレスになって飲みたくなる。今までそうだったもんな。でも今回はきっと大丈夫。今は一人じゃない」
多少は和らいだか。戻りたいかどうか。
「お前、戻りたいか?」
戻りたくない。
「そうか、じゃあ野にお帰り」
ジレマサイド。
「……」
ジレマは人形を前に神妙な面持ちをしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます