第59話 問題点

 翌10時、店員は父親を連れてきた。女子部屋に集合することになっていた。部屋をノックする。

「父を連れてきました。ジレマです」

「どうぞ」

「失礼します」

 ジレマは部屋に入る。

「来ましたね。では早速お父さんには覚悟を決めてもらいます」

「?」

「これからは、一切の飲酒を禁止します」

「はー!? それは横暴だろ!」

「いいえお父さん。お酒を辞めるなら、完全に辞めないといけないんです」

「そもそも俺は望んじゃいない」

「息子さんが望んでるんです」

「本当か?」

「うん。そうだよ。親父」

 顔を下に向けたまま答える。

「そうか。でもなー、辞めるのはなー」

 腕を組み顔をしかめる。

「親父って昔から酒の失敗が多かったじゃん? だからこれを機に変わってほしいんだ」

「分かったよ。でも最後に1杯飲ませてくれ」

「駄目です。お酒に溺れてる人は、コントロールが出来ないんです。最後の1杯が最初の1杯になるんです」

「でも昨日の昼過ぎから飲んでなくて」

「凄いじゃないですか。半日は飲んでないんですよ」

「だから限界なんじゃないか」

「いいえ。できます。だって生まれた時からお酒を飲んできたわけじゃないですよね。なら飲まなくても大丈夫なんです」

「でも……」

「そうやって飲み続けたから、今こうなっているんですよ」

「うぅ」

「息子さんのためだと思って頑張りましょう?」

「分かったよ」

 

 オーメンは問題点を整理し始めた。

「そんなの体を壊すとかだろ。分かってんだよ」

「それだけではありません。身体的問題以外にも、経済的問題と社会的問題があります」

「何だそれ?」

「まず、身体的問題ですが、これはアルコールによって肝臓がダメージを受け、肝性脳症や糖尿病になることです」

「それは問題ない」

「不思議なことに、病院にいっても異常は見つからなかったんですよ」

「それは凄いですね」

 肝臓が丈夫でよかったですね、と付け加える。

「次に経済的問題とは、酒買うために生活が苦しくなってり、ご飯より酒を優先したり、万引きや借金するなどです」

「そこまではいってないから、問題ないな」

「これは本当です。ウチは幸い、多くのお客様と取引先のご愛顧により、経済的には問題なく暮らせています」

「そうですか。では3つ目に社会的問題です。これは、酒のせいで離婚したり、家族・友人関係の破綻が起きたり、会社をクビになったり、逮捕されたりです」

「そこは……」

 ドランカードは言いよどむ。

「まさに私が困っています。取引先との打ち合わせにも、飲酒して望んだ結果言い争いになって、私が頭を下げることが何度もありました」

「そうですか。社会的問題を抱えているんですね。先ほどの反応からして、ドランカードさんもそれは認知していらっしゃるようですね。このままでは、取引先やお客さんからの信用を失い、店も畳むことになりかねません。そうなる前に治していきましょう」

「はい」

「といっても、中心になるのは禁酒くらいですけどね」

「は?」

 ドランカードは少し怒った。

「それじゃ、結局俺が辛い思いするだけじゃねーか」

「落ち着いてください。禁酒以外にも、やることはあります」

 

「そうか。で、どんなことをやるんだ?」

「お酒を飲むことになった原因を探って、お酒を飲む以外の楽しみや時間の使い方を考え、離脱症状を乗り越える方法を考えます」

「乗り越えるって、具体的には?」

「そこは原因次第なところもあるので、まずは話すてください。お酒に溺れるようになった原因を」

「……俺は昔から酒が好きだった」

 ドランカードは語り始める。酒飲みになったきっかけを。

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