SC編
第58話 シルバークリーク
「すっかり暖かくなったね」
次の町へ向かう途中、オーメンは呟いた。
「そういえば俺とオーメンさんが出会ってから1年が経つんですね」
「へー、そりゃめでたい。じゃあ次の町で、ちょっと奮発して祝うか」
オーサーが提案する。
「いいね。私もそうしたい」
リコが賛同する。
「そうだね。倉庫代は浮いたし、働いてお金も手に入れた。少しくらいなら奮発してもいいかな」
オーメンの許可がおり、4人は小さな祝賀会を開くことになった。
「着きましたねー」とアマナスが言うとすかさず、「酒の匂いだ」とオーサーが喜ぶ。
「お魚さんが沢山売ってるね」
リコは魚に興味津々だ。
「シルバークリーク。この町に接する
「それがこの町。なんだか凄いですね」
「酒と魚が多いのは河口があるからだね」
そんな
特別豪華というわけではないが、小綺麗でそこそこ広い店だった。
「では、冒険の1年間を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
「この魚、プリッとしてて、脂も乗ってて美味しいです」
「この酒も美味ーな。甘みの中にほんのり感じる辛味が魚とぴったりだ」
「お刺身だけじゃなくて、このムニエルっていうのも美味しいね」
「トマトと煮込んだこれも、味は濃いのに重たくない。シェフの腕が良いんだろうね」
そんな歓談をしながら、箸を進める。
「それにしても、もう1年ですか。あっという間だった気がします」
「この1年で色んな魔道具を見て、集めてきたけど、死者蘇生の魔道具は見つからなかった。どこにあるんだか」
オーメンはグラスを傾ける。
店の奥からガタンと音が鳴った。少しすると若い店員が出てきて、こう言った。
「お客様は魔道具を集めていらっしゃるんですよね? でしたら、気付効果のある物はありませんか?」
「ごめんなさい。手持ちには、鎮静効果のあるものくらいしかないんです」
「そうでしたか。無理を言って申し訳ございませんでした」
「あの、何があったんですか?」
アマナスが質問する。
「店長が倒れました」
「ええー! 大丈夫ですか?」
「意識はあるのですが、眠ってしまっていて」
「眠るって、どうしてですか?」
「誠に申し上げにくいのですが、お酒の飲み過ぎによるものです」
「え? お酒?」
「仕事中もずっと飲んでしまって……。誠に申し訳ございません」
「とりあえず起こしに行ってあげてください」
オーメンは促す。
「それが、一度寝るとなかなか起きてくれなくて……」
「仕方がありませんね」
そう言いながら彼女は、店の奥へ向かう。そして、バチッという音が鳴る。
「起こしてきました」
「ありがとうございます」
彼は奥へ戻った。
「また雷撃か?」
「ちゃんと加減はしましたよ」
「本当に便利だよな」
「基礎的な魔法なのだから、貴方も使えばいいんですよ」
「お前ほど器用に調整できる奴は少ねーの」
トラブルもあったが、祝賀会は終了した。
そして会計のとき。
「先ほどはありがとうございました」
「どういたしまして」
「その、差し出がましいことを言うようなのですが……」
「?」
「鎮静作用のある魔道具を、父に譲ってはいただけませんか?」
この時オーメンは仲間には見られないよう、一瞬、部屋の隅に溜まったゴミでも見るかのような視線を店員に向けた。
しかしすぐに表情を戻し、こう返した。
「なぜそのようなことを?」
「今回は居眠りでしたけど、気が大きくなって暴言を吐くことや、暴力を振るうこともあるんです。それをどうにしたくて」
「へえ、そうねんですね」
棒読みではないが、冷たさを感じる口調だった。
「オーメンさん。譲ってあげませんか?」
アマナスがそう言った。
「アマナス君?」
冷たい視線を向けないよう、顔を店員に向けたまま話す。
「困っている人がいて、助けてほしいと言ってきたなら、助けるべきですよね? 今までオーメンさんはそうしてきましたもんね?」
「そうだね。でも今回は本当に魔道具を渡してもいいのかな?」
「え?」
「要はお酒を飲まなければいいわけでしょ? それなら魔道具は関係ないよね?」
「それはそうですけど……」
アマナスは言いよどむ。
「なんだ、魔道具を手放したくないのか?」
オーサーがぶっこむ。
「まさか! そんなふうに見える?」
オーメンは薄っすらと口だけを笑わせながら、手を広げる。
「見えるから聞いた」
「……」
口角を下げる。
「安心してよ。そんなつもりはないから」
「そうか」
「ただね、何でもかんでも魔道具に頼って、そっちに依存したら意味がないでしょ?」
「それもそうだな。疑って悪かった」
「というわけだから、これを譲る前にやるだけのことはやってもらいますよ」
「はい。ありがとうございます」
「この近くに宿をとります。明日午前10時にお父さんを連れてきてください」
そう言って彼女たちは店を出た。
「オーサーさんありがとうございました」
「別にー。あの秘密主義者の鼻っ柱を折りたかっただけだよ。失敗したけど」
「はは」
思えば、今まで集めることはあっても、与えることはなかった。あの人にとって魔道具を与えることはどんな意味を持つんだろう。
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