第57話 報われる

「ミモザ、なんで?」

「僕は君が好きだ!」

「いや、わけが分からないんだけど。だって貴女は私の”誘い”を断ったじゃない!」

「あれは君を傷付けたくなかったからだ。あの時の君は困惑している様にも見えた。本当の君ではない何かになってしまったのかと思った。そこに漬け込むように、欲望のままにまぐわってはお互いに後悔する。そんな思いさせたくなかった。僕はずっとまえから君を愛してる」

「そんなの信じられない。だいたい、貴方があの時断らなければ、私はあんなにも多くの男と寝なかったのに、今更そんなこと言われても遅いよ」

「ごめん。でもまだ君は綺麗なままだよ」

「私は取り返しがつかないほど、汚れてきた。どこが綺麗なのよ」

「たくさんの人と寝てきたということは、それだけ人に話しかけ、交渉を成立させていたということだ。その社交性は昔から変わらない」

「ただ必死だっただけよ」

「それでも人を誘えたことは事実だ。それに、相手の性格に合わせてプレイ内容を変えたと聞く。やっぱり君は優しい人だよ」

「そんなことはない。そんな、ことは……」

 彼女は困惑していた。


「君は覚えてるかな? 昔僕は、本ばかり読んでる地味な子って、周りにからかわれてたこと」

「それが何?」

「クラスで演劇をする時に、脚本を書きたかった僕の背を押してくれたのは君だった。演劇は成功した。あれからからかわれなくなったんだよ」

「頑張ったのはミモザでしょ?」

「きっかけは君だ。君が僕を助けてくれた」

「偶然だよ」

「その偶然は君がいたからだよ」

「……」

「君は綺麗なままだ。愛してる」

 片膝をつき、右手を差し出す。

「分かった」

 ボダ子は手を取る。

「でもお試し期間みたいなのは欲しい。そうじゃないと不安でまた……」

「それでもいい。後悔はさせない」


 アマナス達4人は、そのやり取りを見ていた。

「いやぁ、何とか収まりましたね」

 アマナスは安堵する。

「お兄さんたち良かったね」

 リコは同意する。

「これから始まるんだよ」

 オーメンは次を見ようとする。

「ここらで、治療はミモザにバトンタッチしてよくね?」

 オーサーは興味がないようだ。

「本当は良くないんだけど、そうするつもりだよ。私たちも冒険があるし」

「ならいい。この3か月間、この村でずっと日銭稼いでて飽き飽きしてたんだ」

「アマナス君はそれに加えてプロインVの治療もしてたよ」

「はいはい。偉い偉い」

「俺よりオーメンさんの方が凄いですよ。働いて、ボダ子さんに付き合って、リコちゃんの教育まで」

「ありがとう。お姉ちゃん」

「どういたしまして。そう言ってくれると頑張った甲斐があるよ」


 そんなやりとりをしていると、ミモザがこちらに気が付く。

「見てたんですか?」

「ごめんなさい。心配になって」

 アマナスが謝る。

「俺たちは恋のキューピッドみたいなものだから、見る権利くらいあるだろ?」

 オーサーは開き直る。

「それはそうですけど」

 ミモザはオーメンと目が合った。

「ボダ子を世話してくれた方ですか?」

「そうだよ」

「ありがとうございます。お陰でボダ子は見違えました」

「マイナスがゼロに戻っただけだよ。それに、これからも継続していかないとまた元に戻る」

「これからは僕に任せてくれませんか?」

「無論、そうするつもりだったよ」

「旅に出るのですね?」

「目的があるからね」

「皆さんの旅に幸多からんことを願っています」

「ありがとう」


 翌日。

 オーメンはミモザに引継ぎをする。

「と、こんな感じかな」

「こうして聞くと、本当に色々やってくださったんですね」

「人を助けるっていうのは、これぐらいやらないといけないんだよ」

「そうなんですね」

「じゃあ、もう行くね」

「待ってください」

「何?」

「これを」

 ミモザは金色の羽を差し出す。

「これは魔道具⁉」

「昨日告白する前に見つけたんです」

「効果は?」

「鎮静作用と睡眠障害やけいれん発作の予防ができます」

「多いね。貰ってもいいの?」

「彼女を救ってくれたお礼です」

「じゃあ遠慮なく」

 オーメンは魔道具を手に入れ、ミモザの家から出る。


「お待たせ」

「オーメンさん。それは?」

「今回は報われてばかりっだたなー」

「?」

「魔道具だろ。どうせ」

 と、オーサーが。続けてリコが、なんだか嬉しそうと言う。

 まあ、嬉しそうならいいかとアマナスは思った。

 俺はここまでで、どれだけ役に立てただろう。オーメンさんのこの喜びの仲に、俺も入りたい。

 春の日差しが彼らを照らす。桜はまだつぼみのままだが、すぐに開花する。満開までも、そう遠くはない。

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