第56話 日記と瞑想

 ボダ子が男と交わった翌日。

「昨日みたいたことがないように、気を紛らわす方法を実戦しよう」

「日記と瞑想でしたっけ?」

「そう。日記を書くことで、感情のトリガーやパターンの把握ができて、感情の管理もしやすくなる」

「そうなんですね」

「書き方は任せるけど、いくつかルールを決めよう」

「ルールですか」

「毎日書くこと。感情の変化やトリガーとなった出来事は必ず書くこと、定期的に振り替えること。この3つ」

「毎日っていうのが難しそうですけど、頑張ります」

「次は瞑想についてね」

「はい」

「これも毎日やること。初めは数分でいい。徐々に増やしていこう。やり方は、呼吸に集中すること。ゆっくり深呼吸する。それに意識を向けるだけ」

「仕事に運動と食事、肌と髪のケア、日記と瞑想。やることが多すぎませんか?」

「これが自分を変えるということよ」

「どうしましょう。すでに不安になってきました」

「早速日記に書こうか」

「はい」

 

 2月9日。運動を始めてから1週間経った。このタイミングで、やることが追加された。不安になって、また男に逃げようとした。

 だってしょうがないじゃん。まだ運動にも慣れてないのに男という逃げ場も塞がれて、そこに加えて日常をさらに崩さなきゃいけないなんて、とてもじゃないけど出来る気がしない。もう精一杯なのに、私は既に頑張ってるのに、これ以上頑張らなきゃいけないなんて無理!


「じゃあ今度は瞑想しよう」

 ボダ子は目を閉じて座り、呼吸に集中する。鼻から吸った息が肺に流れ込んで、それをまた鼻に戻して吐き出す。これをイメージしながら、ゆっくりと深呼吸をする。

 しかしちょくちょく意識が他に向く。不安を消すためにやっているのに、湧いてくる不安に注目してしまう。

 徐々に呼吸が浅く、早くなる。時折思い出したかのように深呼吸をする。

 3分ほどで集中が切れ、目を開ける。

「3分か。まあ最初はそれくらいでもいいかな。どう? 落ち着いた?」

「多少は」

 それでもボダ子はまだ辛そうな顔をしていた。

 5分いかなかったか。これはちょっと重いな。とオーメンは思った。

「今はまだ、3分くらいで集中が切れるかもしれないけど、続けていればもっと長く出来るようになるからね。自分を信じてあげて」

「はい!」


 それから3ヶ月が経った。

「そろそろメニューを熟すのも慣れてきたかな?」

「はい。ようやく、体型の変化が分かるようになりましたし、瞑想も10分くらい出来るようになりました」

「これまで、本当によく頑張ったね」

「辛かったけど、オーメンさんのお陰で続けてこれました。ありがとうございます」

「どういたしまして。今ならパートナーを作っても問題ないかな」

「ついに、この時が来たんですね」

 ボダ子の表情が、緊張で強張る。

「明日の午後5時20分。仕事が終ったらここに集合してね」

「あの、相手はどんな人なんですか?」

「貴女と同い年の男の子だよ」

「他の特徴は?」

「それは会ってからのお楽しみ」


 翌日、仕事を終えた彼女は集合場所へ向かっていた。

 どんな人なんだろう?イケメンじゃなくてもいいけど、私だけを大切にしてくれる人がいいな。

 そんなことを考えながら歩いていると、人影が見えた。

「え? ミモザ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る