第53話 充実した日

 筋トレが終わったボダ子とオーメンは、汗を流しに風呂に入る。

「肌があれちゃうから、汗を掻いたらちゃんと流しましょうね」

「はい」

 ボダ子が髪を洗おうとしたとき、オーメンがそれを見て待ったをかけた。

「髪を洗う時は、まずくしで梳かすといいわよ」

「そうなんですか?」

「毛先、中心、根本の順に、ゆっくり揉むようにね」

「はい」

「シャンプーを使う前に水で2分くらい流す。これだけでも結構汚れは落とせるのよ」

「知りませんでした」

「洗う時は爪を立てるのは駄目。頭皮をもんでマッサージするかんじで」

 言われる通りに髪を洗う。

「流すのが特に重要でね。痒みやフケの原因は、シャンプーの洗い残しだったりするの。だから念入りに頭皮を揉むわよ」


 そして彼女たちは風呂から上がった。

「髪を拭く時もコツがあるの。髪を髪を引っ張ったり擦ったりしないように、優しくタオルで押さえて水分を取るの」

「はい」

「その後はドライヤーね。根本から中心、毛先の順に乾かすよ。熱ダメージを防ぐため、ドライヤーは近づけすぎないでね」

「分かりました」

「それが終わったら洗顔料、化粧水、美容液の順番に塗ってスキンケアね」


 ここまでで一時間近くが経過していた。

「そろそろ料理も出来た頃かな?」

 2人はリコのところへ行く。

「良かった。もうちょっとで出来るから座っててね」

 オーメンは「はーい」と答える。

「あの子小さいのに料理出来るんですね」

「旅に出る前から作ってはいたみたいだし、旅に出てからはちゃんと教えたからね」

 少し自慢げに語るのだった。

「お待たせ。メニュー通り、白身魚の蒸し料理と、鶏むね肉とケールの炒め物だよ」

「美味しそう」

 ボダ子は目を輝かせる。

「食べる前に1つ注意ね」

「何ですか?」

「よく噛んで食べること。それだけ」

「はい」

「じゃあ、いただきます」

「いただきます」

 檸檬とハーブで味付けされた魚は味が引き締まり、添え物のブロッコリーとアスパラガスが魚のうま味を引き立てる。

 ケールは苦いが、その苦みが鶏肉をより食べさせたくなる。さっぱりとしていて美味しい。

「最後にヨーグルトで〆ね」

「はい」

 ボダ子は一口食べると一言。

「あんまり甘くない」

「これは無糖だからね。その代わりオレンジを添えてるでしょ」

「甘いのがいいです」

「糖分入ってたら太るでしょ」

「そうですけど」

「朝はしっかり、昼は普通に、夜は少なめ。よく噛んで、栄養バランスよく食べる。運動と同時に進めればちゃんと体は作れるし、それが自信につながる」

 まっすぐ目を見てそう言った。

「分かりました」


 食事が終わった。

「今日はもうやることないけど、間食とかしないでね」

「……はい」

 オーメンは、彼女が一瞬口を一文字にしたのを見逃さなかった。

「しないでね」

 笑顔で圧をかける。

「分かってますってば」

「ならいいけど。それと早めに寝て、体力の回復に専念してね」

「はい」

 彼女は元気に返事をする。

「それで今日はどうだった?」

「え?」

「初日から投げ出すことなく、最後まで付いてきてくれて私は嬉しいんだけど、貴女は?」

「そうですね」

 下を向き考える。そして。

「充実した半日でした」

 輝かしい笑顔と共に答えた。

「良かった」

 オーメンも笑顔を返す。


 ボダ子と分かれた時、男衆は戻ってきた。

「どうだった?」

「一人それらしき人はいました」

「やっぱりいたね。これなら遠くないうちに問題は解決できそうだ」

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