七つの大罪 色欲編
第51話 魔女
ウエハー王国を出たアマナスたちは、ひとまず隣の村まで移動していた。
「日が落ちてきたし、今日はこの村に泊まろう」
「今日はあんまり進めませんでしたね」
「仕方ないよ。死者と話せる機会なんてそうそうないんだし」
泊まれる場所を聞いていたとき、とある村人がアマナスとオーサーに耳打ちした。
「あんたら旅人だろ? だったら早くこの村から出ていった方がいい」
「なんで?」
オーサーが聞く。
「この村には魔女がいるからさ」
「どんな奴だ?」
「小太りの女性。この村唯一の宿屋で働いてる」
「魔女ねー」
顎に手を当て思案する。
「アマナス。魔道具が関係してると思うか?」
「これだけじゃ何とも」
「だよなー。まぁ可能性があるなら寄ってみた方がいいか」
「ですね」
「いいのか? それで?」
村人は尋ねる。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず。俺たちの考え方だ」
「分かったよ。仲間の女性と微妙な雰囲気になっても知らないからね」
そう言って男は立ち去った。
その夜2人は警戒心から、交代で部屋を見張ることにした。
3度交代し、アマナスが見張っていた時だった。部屋の鍵を開ける音がした。
来た!
ギィと音をたて、扉が開いた。そこには下着姿の、小太りの女性が立っていた。
「受付の……」
バッと飛び乗ってきた。
「この際年齢なんて関係ない! ねぇしましょう! 宿泊代は返すから!」
恐怖で動けなかった。自分より大きい人に力ずくで拘束され、脈絡もなしに求められた。頭が真っ白だ。
服を脱がされそうになったところで、雷撃が彼女を襲う。
「あびゃー」
彼女は気絶した。
「大丈夫? アマナス君」
「オーメンさん」
アマナスはまだ呆然としていた。
「とりあえず服を着させて、この人を拘束しようか」
オーメンが彼女を拘束している間にアマナスはオーサーを起こした。
「オーメンさんはいつから気付いてたんですか?」
「この宿に入った瞬間から」
「なら言ってくださいよ」
「ごめんね。どんな魔道具かまでは分からないから」
「なぁ。その秘密主義止めねぇ?」
オーサーが突っ込む。
「流石に今回は反省してる。次からはちゃんと言うよ。約束する」
そんなやりとりをしていると、女が目を覚ます。
「ハッ、気絶しちゃった。ごめんね。満足させてあげるからこれ解いて」
なおも女は抱いてとせがむ。
「スゲーなこいつ」
「貴方でもいいわ。解いて。そして抱いて」
「俺が抱きたいのはシズだけだ。バーカ」
オーサーが蔑むような視線と声を向ける。
「なんでよ。なんで愛してくれないのよー」
今度は泣き始めた。
どうなってるのと思わざるを得ない。
とりあえず泣き止むまで待った。
10分後、彼女は泣き止んだ。
「ごめんなさい。村の人も今までの旅人も、1人を除いて断らなかったから……」
「一度断られてるなら、そこで止めてくださいよ」
「だって寂しかったんだもん! 魅力なんて無い私が振り向いてもらうには、これしかなかったんだもん!」
「魅力がないなんて、そんな悲しいこと言わないでくださいよ」
アマナスが励ます。
「じゃあ言ってみて」
「え?」
「私の何処が魅力的か言ってみてよ!!」
急に叫び出した。もはやホラーである。
「えーと、声の通りがいいとか」
「そんなの女性としての魅力じゃないじゃない!」
「ごめんなさいごめんなさい。ほらオーサーさんも何か言ってくださいよ」
オーサーに話を振ることで逃げた。
「ごめん。魅力感じないわ」
「ほらやっぱり!」
彼女は大声で泣きだす。
どうしてこの人はこんなにもデリカシーがないんだ、と内心怒る。
「落ち込まないで」
オーメンが救いの手を差し伸べる。
「目はクリっとしてるし、鼻筋もしゅっとしてる。今はすこし大柄だけど、それも努力で何とかなるよ」
「お客さん……」
女性は少し頬を赤らめて、オーメンを見る。
この人の最大の難点はこの情緒の不安定さだと、アマナスは思っていた。
「あなたがどんな魔道具の影響を受けているのか知りたいし、明日からしばらくここに泊まらせてくれる?」
「よろこんで!」
男衆は遠い目をして、「マジかよ」と呟いた。
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