第50話 相愛

「お前さんたちの依頼を断って悪かった。お詫びにタダで管理したい。どうだろうか?」

 スプリアの提案に、オーメンが答える。

「どうするかはジェイさんとも話し合わなければいけませんが、出来ればこちらにお願いしようと思います」

「チャンスをくれてありがとう」


 ジェイと話し合った結果、スプリアの経営する、セーフハーバーで魔道具を管理してもらうことになった。

「何を預けるかって決めてるんでしたっけ?」

 アマナスが問う。

「未来予知の眼鏡、魔道具修理の卵、食べても太らない水筒、カリスマ性アップの刀、召喚の魔方陣、そして今回のハコ。計6個だね」

「改めて見ると多いですよね」

「まだまだこれからだよ」

「そうですね」

 魔道具を倉庫に入れようとした時だった。

「そういえばそのハコ、入れる前に使わないの?」

「え?」

「特にリコちゃんは、お母さんと話したいだろうし」

「そうですね。じゃあ最後に使いましょう」

 リコに渡す前にアマナスが忠告する。

「ただこれ、その時その人に必要な相手としか話せないんですよね」

「つまり、レイさんと話せるかは分からないと?」

「そういうことです」

 気まずい空気になったが、リコの明るい声で流れが変わる。

「大丈夫だよ。お母さんはきっと来てくれる」

「そうだね」

 アマナスは笑顔で同意する。

「「顕出せよ」って言うんだよ」

「うん。顕出せよ」


 するとリコの母、レイが映し出された。

「ママ?」

「リコ……」

 レイは手を伸ばす。しかしそれが届くことはない。それが分かると手を引っ込めた。

「大きくなったね」

 彼女の目には薄っすらと涙が浮かぶ。

「うん。もう11歳だからね」

 そういう彼女はすこしたどたどしい。

「そっか。もう6年も経つのか」

 寂しそうな表情をする。そして目を擦り、尋ねる。

「後ろの人たちはお友達?」

「冒険の仲間だよ」

「冒険? 今旅をしてるの?」

「うん。魔道具を集めてるの」

「そっか。旅は楽しい?」

「とっても」

 笑顔で答える。

「ご飯は食べてる?」

「うん」

「体壊してない?」

「平気だよ」

「困り事とかない?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。皆優しいから」

 レイは3人を見る。

「この子はまだ幼くて、迷惑をかけることもあると思います。それでもリコはいい子なんです。どうかリコをよろしくお願いします。」

 それに対しオーメンが答える。

「リコちゃんがいると空気が和むんです。リコちゃんは私たちの仲間です。安心して任せてください」

「嗚呼。良かった。この子が今幸せそうで」

 再び彼女の目に涙が浮かぶ。

 彼女の姿が薄らぐ。

「リコ。一緒にいてあげられなくてごめん。愛してるわ」

「私も! 私も大好きだよ! お母さん!」

 映像は消えた。

 リコは泣いた。そして彼女をオーメンたち3人は優しく抱きしめた。

 

「さて、リコちゃんが終わりましたしオーサーさんとオーメンさんも使ってください」

「その時その人に必要な相手としか話せないんだろ? 俺は妹以外必要ないから」

「うわぁ」

 すこし引いた。

「ならオーメンさんはどうですか? 死者を蘇らせることは出来ませんけど、話すことなら出来ますよ」

「私もいいかな。話すことじゃなくて、蘇らせることに意味があるから」

「そうですか。じゃあ預けちゃいますね」

「おい待てアマナス。おめーはやらねーのかよ」

「俺はもうやったんですよね」

「いつ?」

「これを手に入れてから宿に戻る前です」

「で、どんな奴が出たんだ?」

「なんか知らない男の人でした」

「何話したんだよ」

 少し呆れながら聞いた。

「別に、ただの世間話ですよ」

「嘘つけ。必要な相手としか話せねーんだろ? 重要なことに決まってら」

「だとしたら尚更言えませんよ」 

 そう。実を言うと、俺にもよく分からないのだ。男は俺のネックレスを見て1言。「それがあるということは、本当の平和とはまだ程遠いということか」とだけ。

 これじゃあ、俺に必要な相手じゃなくて、死者にとって必要な相手じゃないか!

「兎に角、もうこの魔道具は預けますからね」

「秘密主義者め」

「そこまでじゃありませんよ」

 そう。ただ、不要な混乱を避けたいだけだ。

 アマナスたちは、不要な魔道具を預けた。


「君たちが来てくれて本当に良かった」

 スプリアは4人に礼をする。

「こちらこそ、タダで引き受けてくれて助かりました」

「気をつけて進むんだよ」

「はい。あと、書き置きを預かってもらってもいいですか?」

 プロインVの治療を引き受ける件の書き置きを残した。

 行き先は隣の村。そこで彼らは"魔女"と出会うことになる。

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