第48話 誰が言うか

 とは言ったものの、手掛かりはないんだよな。

 そう思いながら町を歩いていると、クラウドキープの社長、ジェイに声をかけられた。

「説得はどうなりましたか?」

「すみません。難航してます」

「気にしないでください。スプリアさんが頑固なのは、業界中が知ってますから」

「そのことで聞きたいんですけど、スプリアさんにとってグレマさんってどんな人だったんですか?」

「グレマさんは私の父やスプリアさんの代なら、皆お世話になったことがあるほどの教育者です」

「ほう」

「台帳の記録のやり方、保管環境の整え方、パレットの管理法、防犯対策など、今までの管理法を塗り替え、それを分かりやすく教えてくれました」

「本当に凄い人ですね」

「ですが過労が祟って、50にもならずこの世を去りました」

「心中お察しします」

「ですが彼が遺したものは大きい。だからスプリアさんは尚更変えたくはないのでしょう」

「そうだったんですね」

「しかし、何故彼のことを?」

「復活させてスプリアさんを説得して欲しいからです」

「は?」

「魔道具には死者を蘇らせるものもあると聞きます」

「それなら最近聞いたような」

「本当ですか⁉」

「たしか王家がそんな魔道具を集めてきたとか」

「ありがとうございます。行ってみますね」

 お礼を言うと、王宮へと走っていった。

 

「王様に会わせてください」

 アマナスはアイソ王国の王からの紹介状を見せる。

「この印は、確かに隣国のものだ。しかし偽造品かどうか確かめる必要がある。しばし待たれよ」

 数分待つと王宮へと通された。

「要件を申してみよ」

「王様が、死者を蘇らせる魔道具をお手入れになったと聞き及びました。差し出がましいかとは思いますが、それをぜひ譲っていただきたいのです」

 臣下たちはざわつく。

「アマナス殿。申し訳ないが、私が手にしてのは、死者と対話できるものだ。それと、譲るには条件がある」

「かまいません」

「あの魔道具を集めたのは娘なのだが、魔道具を集めてからというものの、部屋に引きこもって使者と対話してばかりいるのだ。何とかしてくれんか?」

「承りました」


 アマナスは王に案内され、娘の部屋の前まで来た。

「シャルロット。お客さんだよ」

「……」

「王女様。私は魔道具集めの冒険をしております、アマナスと申します。この度は王女様が魔道具を集められたと聞き及び、お話をしたく参りました。つきましては、お部屋から出てきてはいただけないでしょうか?」

 しかし返事はない。

「出てこんな」

「では、出てきたくなるようなお話をしましょう」

 アマナスは提案する。

「俺が旅に出るきっかけになった話です」

 アマナスはオーメンとの出会いの話をした。

「というわけで俺はオーメンさんについていくと決めたのです」

 王女の沈黙は続いた。

「駄目だったようだな」

「まだです。まだ話のネタはあります」

 焦るアマナスだったが、その焦りは不要だった。

 

 王女が戸を開けたのだ。

「私、王位を継ぐわ」

「え?」

「え?」

 アマナスとシャルロットは顔を見合わせる。

「あら、お客様がいらしたのね」

「えっ、あっ、はい」

「おーシャルロットよ。よくぞ出てきてくれた」

 王は彼女を抱きしめる。

「私分かりましたの。王になっても、冒険は出来るのですね」

「彼の話をきいてそう思ったのかね?」

「いいえ。ご先祖様が教えてくださいましたの。王になっても外交を増やせば、それは冒険が出来ていることと同義だと」

「そうかそうか。折り合いをつけたのだな」

「その、よかったですね」

「ああ。本当に」

「ところで報酬の件ですが」

「ああ、約束だからな。魔道具は渡そう。シャルロットもそれでよいな?」

「ええ。もう満足ですわ」

「ありがとうございます」

 結局俺が話したのは意味がなかったのか。これが"誰が言うか"ということか。釈然としないながらも彼は宿へ戻った。

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