第47話 頑固者

「君たちか。堕ちた人たちと話し合いたくはないんだが」

「聞いてください。私たちは堕ちてなんかいません」

「あれだけの魔道具を持っていながら、それは無理があるだろう」

「魔道具を持っているからといって、必ずしも楽が出来るわけではないんです」

「嘘をつけ」

「とある少年は力を求め魔道具を手にしても、制御が出来ず飲み込まれかけました。とある少女は適性がなく、魔道具を使えないせいで村の制度からあぶれました。とある作家は、魔道具のせいで楽しみを奪われました。とある王は魔道具のせいで傲慢になり、家臣に裏切られました。とある青年は魔道具と共に家を追いだされました。とある女性は魔道具に依存し、身を滅ぼしかねない状況でした。とある国は魔道具のせいで病気が蔓延しました」

 それは今までの旅で見てきたものだった。


「魔道具は暮らしを便利で豊かにしますが、決してそれだけではないんです」

 オーメンはスプリアの目をまっすぐ見つめる。

「その者たちにとっては、よい薬になったのではないか?」

「良薬は口に苦しと言いますが、そもそも薬を必要としない生活の方がいいんです。この子リコは幼くして両親を亡くしました」

「なんと!」

「母親の友人が世話をしてくれましたが、それでも両親がいれば悩まずにすんだことも多いのです」

「艱難汝を玉にすともいうし、悩むことは悪いことじゃないだろ」

「それは始まりがゼロ以上のときです。マイナスからスタートするなら、苦労はない方がいいんです」

「確かにそうだが、魔道具を使うときの開始地は、ゼロ以上ではないかね?」

「そうとも限りません。マイナスをゼロにしてくれるものもあります」

「例えば?」

「魔道具を手にし、制御が出来ず飲み込まれかけた少年は、自分の扱える力を超える力が必要だと勘違いしていたのです。しかし今は改心し、無理せず出来る範囲で頑張ってくれています」

 アマナスは照れて顔をそらす。それをスプリアが見る。

「しかし、それは個人単位の話だろ? 伝統はそうもいかん」

「同じです。今まで積み上げてきたものは失われません。一部必要なくなるものや、改変するものもあるでしょう。しかし完全になくなることはないのです。新技術とうまく合わさり、形を変えて生き残っていくのです」

「その保障などどこにある」

「スタンプ制度がまさにそうです。スタンプが出来る前は、数年に一度国内を調査し、紙で管理していました。スタンプ制度ができてからも、詳細なことを調査するときは以前の技術と知識が使われています。それでもまだ魔道具の使用は駄目だと思いますか?」

 スプリアは口をパクパクさせていた。

「それでも、やっぱり受け入れられない。すまないが今日はもう帰ってくれないか」

 彼は意気消沈していた。

「分かりました」

「えっ、でも」

「帰ろう。アマナス君」

 

 宿に戻るとアマナスはオーメンに話しかけた。

「結局だめでしたね」

「多分。頭では分かってたと思うよ。だから多分、何を言うかより、誰が言うかだったんだろうね」

「なんか悔しいです。オーメンさんは間違ってなかったのに」

「それほど信頼とか積み重ねてきたものは大事ってこと」

「なら積み重ねてきたものがある人に頼みましょうよ」

「例えば?」

「それはこれからアプレさんに聞いてきます」

 そう言ってアマナスは宿を出ていった。

「追わなくていいのか?」

「納得できるまでやらせてあげようよ」


 そもそもスプリアさんがあんな頑固なのが悪いんだ。もっと柔軟に新技術を受け入れればいいのに!

「失礼します!」

 アマナスはセーフハーバーに入る。

「お客様⁉」

「アプレさん。さっきの俺たちの話聞いてましたよね?」

「ええ、まあ」

「ならアプレさんからも言ってやってくださいよ」

「無茶言わないでくださいよ。僕は師匠とギクシャクしたくありません」

「なら、だれならあの人を説得できそうか教えてくださいよ!」

「……師匠の師匠。グレマさんならあるいは」

「その人今どこにいますか?」

「もう亡くなってます」

「ッ」

「そういうわけですので、誰も師匠を説得することはできませんよ」

「分かりました。だったら、死者を蘇らせる魔道具を見つけてやりますよ! 絶対になんとかしますからね!」

 アマナスは店を出る。

 絶対に見つけてやる! そしてオーメンさんが間違ってないって証明するんだ!

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