第46話 説得の方向性

 クラウドキープの社長ジェイから、セーフハーバーの社長スプリアの説得を任されたアマナスたちは、早速対話を試みた。

「さっきぶりですね」

「魔道具なら預かりませんよ」

「ええ。魔道具ならクラウドキープに預けることにしましたから」

「それならどのようなご用件で?」

「誤解を解きに来ました」

「誤解?」

「魔道具は悪いものではありません」

「そういう話なら聞きませんよ。お引き取りください」

「そういわずに」

「私まで堕ちるつもりはありませんので」

 彼はバックヤードに退避した。


 アマナスたちは、どうしたものかと顔を見合わせる。

「師匠がすみません」

 若い男がバックヤードからやってきた。

「僕はスプリアの弟子、アプレです。師匠の魔道具嫌いには棒も少し困っていまして」

「なぜあんなにも嫌うのでしょうか?」

 アマナスが問う。

「単に頑固なだけですよ」

「それだけですか?」

「師匠の腕は確かです。ですが一度こうと決めると、頑固になるんですよ。昔から人の手で管理してきたのだから、これからもそうするべきだって聞かないんです」

「魔道具が介在しない歴史ですか。それは確かに価値あるものですね」

 オーメンが反応する。

「魔道具が生まれてからの人類史は、魔道具とともにありました。その中で魔道具と関わらずここまで生きてきたのは、歴史的価値があります」

「オーメンさん。俺たち説得に来てるんですよね?」

「分かってるよ。でもそれとこれは別。和解しても使わないという選択もあるってこと」

「そんな選択が」

 アマナスは驚く。

「よし。説得の方向性はこれでいこう」

「肝心な話し合いの場はどう用意するんだ?」

 オーサーが開口する。

「今回みたいに顔を合わせても、相手に聞く気がなければ意味がないだろ」

「それならば、僕がなんとかしますよ」

 アプレが名乗り出る。

「師匠の扱いは僕が一番分かっていますから」

「じゃあお願いしようかな」


 アマナスたちは、その日は宿に泊まって、どう説得するかを考えていた。

「そもそも嘲笑とか堕落するってどういう意味で言ってんだろうな?」

「多分、今までの積み重ねが無意味になることを憂いているんだと思うよ」

 オーサーの問にオーメンが答える。

「別に無意味にはならんだろ」

「気持ちの面ではそうはいかないんでしょう」

「楽が出来て、ミスもしないんだろ? いいこと尽くめじゃねーか」

「その気持ちを指して堕落といってるんだよ」

「人間なんて楽したい生き物だろ?」

「その本能のままに生きることは、今までの理性的な努力の日々を嘲笑していると感じるんでしょうね」

「俺には分からん」

「でもその気持ちに寄り添わなければ、説得は難しいと思う」

 

 話が少し煮詰まった。

「苦労することは、いいことばかりじゃないと思うな」

 リコが話始める。

「私はお母さんが死んでから、琴さんに手伝ってもらいながら生きてきたけど、やっぱり普通にお父さんとお母さんがいたら、悩まなくても済んだし」

「そうだよね。リコちゃんは大変だったもんね」

 オーメンがリコを抱き寄せる。

「魔道具が未来に繋がることがあるってことは伝えた方が良いですよね」

 アマナスが話す。

「そうだね。それなら、堕落しないことに説得力が増す。後は"これまで"を嘲笑うものでもないことを伝えられたら満点だ」

 オーメンが賛同する。

 彼らは話し合った。そして意見がまとまった。

 翌日、アプレに話し合いの場を設けてもらった。

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