第41話 兆し

「とまあこんな感じで、俺は父である国王に復讐することに決めたわけだ」

「大変だったんだね」

「本当に、骨身を削る思いだったよ」

「でもやっぱり、病気をばらまいちゃ駄目だよ。ショシーロさんやマルサさんと同じおもいをする人が増えるだけだよ」

「それが目的なんだよ。お嬢ちゃん」

「そんな……」

 

「復讐のやり方はこうだ。魔物たちを捕獲し、その魔力を抽出する。それを集めて王都にばら蒔く。お嬢ちゃんには、魔力の誘導をして欲しいんだ」

「やらなかったら?」

「さっきも言ったが、俺諸とも国中にばら蒔く」

「分かった。だったら協力――」

 と言いかけた時だった。


「そんなことさせられるか!」

 我慢できずに、アマナスが飛び出してきた。

「なんだテメー!」

「リコの保護者だバカやろう!」

 アマナスはマルサを殴った。

「痛ってーな」

 だがあまり効いていないようだ。

「リコにやらせるくらいなら、俺がやる」

 マルサは一瞬驚いたが、すぐに納得した表情をした。

「確かにお前の方が強そうだ。良いだろう。こいつを解放してやる。代わりにお前が残れ」

「挑むところだ」

 覚悟を決めたアマナスに、オーサーが質問する。

「本当にいいのかよ?」

「うまく誤魔化して、魔力が王都に行かないようにします」

「出来るのか?」

「やるしかありません」

「そうか」

「オーサーさん。リコちゃんを頼みます」

「ああ」

 オーサーはリコを連れて宿へ戻った。


 宿に戻ると、オーメンが待っていた。

「アマナス君は?」

「リコの代わりに残った」

「そう」

「意外と冷静だな」

「彼なら大丈夫だと思うから」

「どうだかな」

 

「話は変わるけど、牛丼の件、報告してきたよ」

「どうだった?」

「牛丼の中の、肉に反応があった。調べてみたら、やっぱりプロインVが検出された」

「肉の中か」

「面白いことに、検出した肉としなかった肉があったんだ」

「何!? 同じ丼の中なのにか?」

「そう。つまりこれは、特定の産地にしか存在しない病原体だということ。しかも、今まで聞いたこともないから、きっとアイソ国原産のものと考えられる」

「この国のどこかの畜産農家が原因なのか。じゃあもう少しだな!」

「そう。あとはあの牛丼屋がどこから仕入れたのかを聞いて、そこを調査するだけ」

 オーメンとオーサーは喜んだ。しかしリコはまだ浮かない顔をしている。

「もし解決したら、マルサさんは復讐を止めてくれるかな?」

「どうだかな? 解決したところで家族は帰ってこないし、怒りも鎮まらないだろうな」

「それは悲しいね」

「それでも、これには意味がある。悲劇を生まないための大事な調査だよ」

 オーメンがフォローする。

「そうだよね。きっとそうだよね」

 リコは努めて笑顔を作った。


「となると、時間が最大の障壁だな。マルサがいつ黒魔法を使うか分からねー」

「大丈夫。最悪、発動した後でも何とかなるよ」

「根拠は?」

「それはね――」


 アマナスサイド。

 やってしまった。残るとは言ったが、黒魔法使うなんて嫌だ。なんとかしないと。考えろ! 考えろ俺!

 残ったことを少し後悔しているアマナスだった。

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