第40話 捨てられたものたち

 マルサがゴミ山を統べてから、6年が経過した。

「ボス。買ってきましたぜ」

「よし。炊出しの準備だ」

 マルサはディレクとは逆に、富を分配する方向で、ゴミ山を管理した。

 最近新入りが多い。それも、痙攣を起こしてたり、歩行が不安定な奴が殆どだ。労働力に出来ないわけではないが、生産性が低い。

「お兄ちゃん。今日の入居者まとめておいたよ」

「ありがとう」

 アマントの死以降、マルサとショシーロは、彼女が残した本を元に勉強をし、賢くなっていた。

 この炊出しも、いつまで出来るか分からねー。そろそろ対策をとらねーと。

 

「そんなわけで、どうしたらいいかを話したい。何か案の有るものはいるか?」

「新入りは王国からやってくるんだし、王国で何が起きているのか調べてみるのはどう?」

 ショシーロが提案する。

「それはいい案だが、俺とショシーロは未だに警察からマークされてる。アイク。お前行ってきてくれないか」

「喜んで!」

「では、新入り達の居住スペースについてだが……」

 2時間ほどで話し合いは終わった。

「では、今日はここまで。アイク。調査の件、頼んだぞ」

 7年かけて、ここまで平和にしたんだ。何が起こってるのか知らねーが、迷惑だけはかけないで欲しいもんだぜ。


 3日後

「ボス。調査終わりましたぜ」

「来たか。幹部を集める。待機してろ」

 そして幹部は集合した。

 アイクが話始める。

「どうやら最近、王国で感染症が広がってるらしい」

「感染症だと!?」

「感染経路は不明。症状は、記憶障害や筋肉の震え、歩行が不安定になる、痙攣などが起こる。治療法はなく、発症後1年~2年で死ぬ。そして致死率は100パーセント」

「致死率100パーセントだと⁉」

「最近移住者が増えたのは、少しでも感染者を遠ざけたかったからだろうな」

「親父め、厄介ごとを押し付けやがって」

 

 それからも移住者は増え続けた。ついに居住スペースや食料、拾えるゴミが分配しきれなくなった。

「これだけかよ」、「あいつらだけで独占してんだろ」「ディレクの時の方が良かったのに」そういった不満や不安の声はマルサの耳にも届いた。

「特に昔からいたやつからの不満が多い。どうする? ボス」

「民には悪いが、今は我慢してもらうしかない。そしてそれに報いるためにも、早急に対策を考えなければ」


 悪いことは大群でやって来る。家に帰ると、ショシーロが体を震わせていた。

「ショシーロ⁉」

「お兄ちゃん。体が言う事聞かなくて……」

 ハッとした。これはアイクがら聞いた症状なのではないか?

「病院に!」

 マルサはショシーロを担いで、病院へ向かった。

 マークされてるとか知ったことか! もう家族を失いたくないんだ俺は!

「これはプロインVによるものですね」

 医者はキッパリと述べた。

「そんな……」

「残念ですが、残された時間を大切にしてください」


 ショシーロの手足は震え、筋肉の痙攣でにより、面白くもないのに笑い、ときおり金切り声を上げた。

 マルサも消耗した。あれだけ元気で、風邪だって一度もひかなかった彼女が、こんな惨めな姿に変わり果てたからだ。

 一年はあっという間に過ぎた。彼女は死んだ。

 マルサは妹を埋葬しながら考えた。

 俺たち兄弟は強い免疫を持ってる。それなのに病気に罹った。これは魔道具のせいなのではないかと。だとしたら王が妹を殺したようなものだ。病人をここに隔離し、病原体をばらまいた。何でもかんでも捨てやがって。

「ボス、その、ご愁傷様です」

「泣いている暇はないぞ。弔い合戦だ! 捨てられたものたちの怒りを、王に知らしめるのだ!」

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