第37話 ゴミ捨て場

「念のために言っておくと、二人の牛丼には反応無かったから安心して」

「それは良かったです」

 ご馳走様でしたと言って、四人は牛丼屋をでて、病院にブツを持っていこうとしたときだった。

「んんん~」

 男がリコを誘拐した。

「⁉」

 三人は、あまりに急の出来事だったので、反応が遅れた。

「待て!」

 と男を追いかけようとするオーメンをオーサーが引き留める。

「お前は医者にそれを持っていけ」

「でも」

「探知機を持ってるのはお前だ。リコは俺とアマナスで追いかける」

「分かった」

 二手に分かれる。


 アマナスとオーサーは男を追い、国の端まで来た。

「ここは⁉」

「クセーな」

 そこはゴミ捨て場のような場所だった。

「いました! あそこです!」

 二人は男が入った家に向かう。

「まずは様子を見るぞ」

 見つからないように窓の外から、中を窺う。


「連れ去って悪いな。嬢ちゃん」

「さっきのお兄さん! やっぱり怒らせちゃったよね? ごめんなさい」

「むしろ逆さ。お嬢ちゃんを見つけられて、俺は心底嬉しいんだ」

「そうなの?」

 リコは首をかしげる。

「結論から伝えよう。君には黒魔法を使って、王都、特に王宮に病を散布して欲しい」

「ヤだよ。そんなの」

「まあお嬢ちゃんがやらなくても、病はばらまくけどな」

「じゃあ私必要ないんじゃ?」

「その時は王都だけでなく、国中にばらまくことになる。無論俺もただでは済まないが」

「なんでそんなことするの?」

「俺の妹が国に殺されたからだ」

「⁉」

「俺たちの出自から話したい。俺とショシーロは現国王の子だ」


 18年前。

 俺の母アマントはめかけだった。

「王よ! どうかあの子たちだけは、王宮においてはいただけませんでしょうか⁉」

「ならぬ。正妻には子がおらぬ。この状況でその子らを残せば、王位継承にあたり問題が発生する。それは避けなければならない」

「王位はいりません。生まれてきた子どもには何の罪もありません。どうかお慈悲を」

「ならぬと言うておろうが。それより、お前がここに居られるのは今日までであることは、忘れてはおらぬだろうな?」

「承知しております。故にこうして、子どもだけでもとお願いにあがった次第です」

「ならぬと言ったらならぬのだ」


 アマントは翌日、生まれたばかりの子どもたちを連れて、王宮の外に追いやられた。

 彼女は宮仕えの家系。今更実家には帰れない。途方に暮れていた彼女だが、赤子の鳴き声を聞き我に返る。

「ごめんね。お腹空いたよね。すぐあげるから待っててね」

 彼女は腰を据えられる場所を探した。

 しかし、金はなくコネもない彼女に、居場所などなかった。そして国の端までたどり着いた。そこはゴミ捨て場。住み着く者は脛に傷のある者が殆どで、悪臭も漂っていた。まさにスラムにも劣る環境だった。それでも彼女にはここしか居場所がなかった。

 ひとまず、目に入った人物に声を掛ける。

「すみません」

「ん? 新入りか?」

「はい。今日ここへ来ました」

 男は赤子を一瞥した。

「お前さんも大変だな。中心地以外は自由に使え」

「ありがとうございます」

 彼女は段ボールと布を拾い、簡易的なテントを作った。

 何とか腰を据えられる墓所を探せた。でもこれからどうしよう。

 アマントは二人の寝顔を眺める。

 そうだよね。この子たちのためにも、泣き言なんて言ってられないよね。まずはここでの暮らし方を知らなきゃ。


 翌日彼女は、昨日の男を探した。

「すみません。今よろしいでしょうか?」

「ああ、昨日の……」

「アマントです」

「何か?」

「ここでの暮らし方について教えていただきたくて」

「タダでか?」

 男は目を細め、彼女の胸を見る。

「もちろんお礼はいたします」

「ここはゴミ捨て場。毎日色んなものが運び込まれる」

「毎日ですか」

「その中には換金可能なものもある。それを集めて門の外、つまり国内のリサイクル屋に持っていく」

「そうなんですね」

「ちなみに、ごみの中にはまだ食べられるものもある」

「分かりました。ありがとうございます」

「それと、昨日も言ったが中心地には行くな」

「なぜでしょうか?」

「ボスの縄張りだ。あいつは気性が荒い」

「気を付けます」

「さて、じゃあお礼を貰おうか」

 これもここで暮らすための通過儀礼。受け入れるのよ。

 アマントは目を閉じ、口を一文字に結んだ。そして彼女は男の家へ着いていった。

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