第34話 動機
ベルは野菜を口にした。吐き気がした。
大丈夫大丈夫! 野菜は殆どカロリーないから! だから飲み込め!
「はぁ、はぁ。もう限界です」
全員にとって想定外だった。魔道具に頼れば、大食いチャレンジですら簡単にこなしていた彼女が、野菜一口でギブアップしたのだ。
「よく頑張ったね。偉いよ」
オーメンは褒める。
「ありがとうございます」
「現状は分かった。今日はもう休もう」
「はい」
翌朝、アマナスたちは再びベルの家に来た。
「今後の方針について考えてきたよ」
「話してください」
「ベルは魔道具を使って食べた後って、ちゃんと排泄出来てたの?」
「はい。ちゃんと毎日」
「なら内臓はちゃんと機能してるってことだね。そうなると吐き気がするのは精神的な理由だね」
「やっぱりそうですよね」
「食べたら体重は増えるけど、それは太ることとは違うってことを、まずは認識しないと駄目だね」
「それは何が違うんですか?」
「今の貴女は痩せすぎているから、食べればその分体重は増えると思う。けど、それは標準に戻ることを意味しているの。つまり、マイナスがゼロに戻るだけ。プラスにはならない。そういうこと」
「イメージはつきましたけど……」
「納得はできない?」
「正直にいうと……」
「繰り返すけど、ゆっくり変えてけばいいんだよ。だから大丈夫」
それから彼女は魔道具なしで食べ物を口にする訓練を始めた。しかしそれは地獄の始まりでもあった。
「食事がこんなに辛いなんて初めてよ! もう嫌だ! 食べたくない! 食べ物なんて見たくもない!」
ベルは心からの愚痴をこぼした。
「辛いよね。苦しいよね。分かるよ。でもきっと乗り越えられるから。だから投げ出さないで」
オーメンは彼女の手を優しく握る。
「でも本当に辛くて……。魔道具使ってドカ食いしたい」
「私たちが支えてるから。だから一緒に乗り越えよう? ね?」
「うぅ」
泣きながら首を縦に振る。
翌日。
「昨日あんなことがあったから思ったんだけど、目標体重を決めない?」
「目標?」
「終わりが見える方が楽になるでしょ?」
「そうかも」
「今は38キロだったよね?」
「うん」
「平均は52くらいなんだけど、どうする?」
「ひとまず45でもいい?」
すこし考える。まあ最初は達成できそうな数値からでもいいか。
「わかった。
それから3か月が経過した。
ベルの体重は43キロ。目標まであと2キロ。
「もうちょっとだね」
「はい。オーメンさんのお陰でここまでこれました」
「油断は禁物だよ」
「はい」
「それと、今後のことなんだけど、再発防止のために、動機の解消をしたいの」
「動機の解消?」
「ベルは、好きな人に心無いことを言われて、痩せ始めたでしょ?」
「はい」
ベルは片腕を組む。
「付き合うことができれば減量の動機はなくなり、再発を防げるかもしれない」
「でも」
ベルが何か言いかけたが、アマナスが口を挟む。
「痩せてからも、振り向いてはくれなかったんですよね?」
「はい」
ベルは顔を伏せる。
「だったら、他の人に気持ちを向けた方がいいんじゃ?」
「アマナス君、それは酷なんじゃないかな?」
オーメンが反論する。
「いや、こいつの言う通りだろ。叶わない恋をする気持ちは分かるけどな。今回に限っては違うだろ」
オーサーが反駁する。
「どうしてそう思うの?」
「フラれたことが原因なら、今度はこの努力が報われたと思えなきゃだめだ。だったら、叶う恋に切り替えた方がいいだろ」
「確かにそうかも。ベルはどうしたい?」
「私はやっぱりハンス君に見てもらいたい。たとえフラれることになっても」
「分かった。じゃあハンスに告白しよう」
こうしてベルは気持ちに区切りをつける事を決意した。
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