第33話 状況、気分、思考

「話してくれてありがとう。事情は分かった。だけどやっぱり密猟は駄目だよ」

 オーメンが優しく注意する。

「うぅ」

「だからさ、魔道具無しでも、普通に食事が出来るように頑張らない?」

「はい!」

「よし。じゃあ早速始めよう」

「よろしくお願いします」


「まず、吐いてしまう時の状況について書いてみようか」

「吐くときは、魔道具を使わずに食事をした時です」

「次は気分について教えて」

「後悔と罪悪感で心が押し潰されそうになります」

「最後に思考について教えて」

「これじゃあ、すぐに太ってしまうって思います」

「ふむ。とりあえず書き出せたね。次は今挙げた3つが、妥当かどうか考えてみようか」

 段階が移行する。

 

「まず、魔道具を使わずに食べたら吐くことについて」

「これがおかしいのは分かってるんです」

「そうだね。多くの人は食事をしても吐かないもんね」

「はい」

「次は後悔と罪悪感だね」

「食べちゃいけないのに食べちゃったって思うと、そういう気持ちが込み上げてくるんです」

「その、食べちゃいけないっていうのが妥当じゃないよね?」

「いやぁ」

「食べないと人は死ぬし、食べたからといって誰かに罰せられる訳じゃないんだよ」

「それはそうですけど……」

「そもそも16歳あなたの年齢だと2300キロカロリーの摂取が望ましいの。体重も52キロくらいが平均だから、それくらいは目指さないと」

「そうは言いますけど、オーメンさんは何キロ何ですか?」

「54キロ」

「そうとは見えません。嘘ついますよね?」

「私のこれは筋肉だから」

「そうなんですね。参考までに他の三人の体重も聞いていいですか?」

「皆答えてあげて」

 アマナスから順に、オーサー、リコと答える。

「52です」

「55」

「30キロだよ」

「アマナス君は平均的で、リコちゃんも平均に近い。オーサーさんは少し痩せ気味かな。皆普通に食事してこれだからね」

 オーメンが説得する。

「ちなみにお前は何キロなの?」

 オーサーは直球で聞いてきた。

「だからデリカシー!」

「だってまだ聞いてなかったし」

「38です」

「おいおいそれヤバいだろ」

「そうですよね。もっと痩せないと」

「そうじゃねーよ。もっと食えよ」

「オーサーさん。ちょっと黙っててくれます?」

「なんで?」

「今の彼女に、ノンデリカシーは死を意味します」

「分かったよ。黙ってらんねーから酒場行くわ」


「さて、話を戻そう。後悔と罪悪感だったね。さっきのやりとりで分かったと思うけど、普通に食べたくらいなら太ることはないんだよ」

「それでもやっぱり、後悔が消えなくて……。自分で決めたことすら出来ないなんて、この先何を決めても変われない気がして」

「大丈夫だよ。皆もそんな立派なものじゃない。むしろ自分で決めたことは、誰かが管理してくれないから、一番実行が難しいの。だから大丈夫。貴女も変われるよ」

「オーメンさんもそうなんですか?」

「そうだね。常に冷静でいようと思ってても、魔道具のこととなると、暴走しちゃうことがあるんだよね。でも皆がいるから何だかんだで順調にきてるんだ」

 ニコっと、屈託のない笑顔を浮かべる。

「でもやっぱりそうは思えないんです」

「すぐに思考を切り替えることはできないと思うよ。ゆっくりでいいんだよ」

 オーメンは優しく声をかける。

 

「さて、一段落したし。夕食にしよう」

「はい。私お腹が空きました」

「ただし」

 オーメンが待ったをかける。

「魔道具なしで食べてね」

「え?」

「普段の食事を確認したいの」

「でも」

 少し声が震えていた。

「無理して食べる必要はないから、無理そうならそこで止めていいから」

「わかりました」

 魔道具なしか。大丈夫。前まではそうしてた。野菜くらいなら吐かなかった。大丈夫。大丈夫。

 そう思い、彼女は野菜を口へと運んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る