第32話 暴食
男たちに連れていかれたオーメンと女性だったが、すんなりと解放された。
「ごめん。待たせたね」
「何かされませんでしたか?」
アマナスは不安そうに聞く。
「ちょっとお叱りは受けたけど、初犯だったから罰金を払うだけで済ませてくれたよ」
「本当にごめんなさい。オーメンさんは関係ないのに」
「ベルさんは気にしないで。私がしたくてしてことだから」
「その、ベルさん? はどうしてあんなことをしたんですか?」
アマナスが質問する。
「その辺は一度彼女の家に行ってからにしない? 私疲れちゃった」
オーメンは欠伸をする。
「そうですね。俺も眠いですし」
彼らは一度ベルの家に行き、寝かせてもらうことにした。
日も落ちたころ、アマナスたちは目覚め、ベルから話を聞くことにした。
「私は昔から食べるのが好きでした」
半年前。
「相変わらずベルの弁当はデカいな」
クラスメートが興奮交じりにそう言った。
「これぐらい食べないと、気持ちよくなれなくてさー」
ベルは、三リットルほどある弁当箱を広げる。
「お前運動とかしてたっけ?」
「してないよ」
「ならほどほどにしとかないと太るぞ」
「ムッチリ体系の方がウケはいいんですー」
自分に言い聞かせるように言うと、バクバクとご飯を他食べる。
「ふーお腹いっぱい」
心地よい眠気に襲われ、昼休みの残り時間を眠って過ごした。
このなんでもない午後の時間が一番好きだ。
そんな彼女も乙女である。好きな人がいる。隣のクラスのハンス君だ。
彼女はその日の放課後、彼を校舎裏に呼び出し、告白する。
「ハンス君。好きです。付き合ってください」
「いや、太ってる子はちょっと……」
玉砕した。
「そっか。そうだよね太ってる子は嫌だよね。ごめんね。気持ち悪かったよね。あはは」
「ごめん。じゃあ」
太ってる私って、存在価値ないじゃん。
それから彼女はダイエットを始めた。まずは弁当箱を五百ミリリットルにした。そしてそのうえで、残した。彼女が実際に食べている量は二百ミリリットル弱だった。
午後の授業中。
あーー! 駄目だ! 足りない! お腹空いた! 一割以下って何! 全然話入ってこない。でも我慢だ私。これもハンス君に振り向いてもらうため。ここが踏ん張りどころよ!
加えて毎日二キロのランニングもした。
三週間もすると、流石の彼女も標準体型くらいには落ち着いた。すると、他校の男子が告白してきたのだ。
「一目ぼれしました。付き合ってください」
「ごめんなさい」
ベルはフラれた後も、ハンスのことが気になっていたのだ。そもそも彼女は、ハンスに振り向いてほしかったから痩せたのだ。
その後も何人かの男子に告白されることになった。しかしそれが悪かった。
彼女は痩せることで、モテた。故に痩せる事は美しくなることと思い込むようになったのだ。いずれは彼に振り向いてもらえると、信じていた。
だが現実は厳しい。ハンスはベルに振り向かない。そのことは確かに彼女の心を蝕んだ。
「ハッ。私は何を」
深夜。彼女は口元に違和感を抱き、目を覚ました。彼女は食糧庫から盗み食いをしていた。そして吐いた。
「はあ、はぁ。私は何を⁉」
確かに私は美しくなった。痩せると決めて、食事を減らして、運動もした。だから色んな人に告白された。なのに! ハンス君は、ハンス君だけは振り向いてくれない!
痩せなきゃ! もっと痩せなきゃ!
彼女の心は崩壊寸前だった。その日から、過食しては吐いてを時折していた。食事も殆ど摂らず、体を動かしてはすぐ倒れた。
「ううぅ、うっ」
辛い。お腹空いて寝れないし、イライラするし、そのせいでまた食べたくなる。食べちゃダメなのに。
自分で決めたことすら出来ないなんて、この先何もできないんじゃ?
駄目だ。そう考えるともっと食べたくなる。
減量を始めてから5か月が経った。その日もいつも通り、少量のサラダだけで昼食を済ませていた。すると、心配した友人がこう言った。
「もっと食べないとまた倒れるよ。卵焼きあげるから食べて」
「いらない」
「でも」
「いらないって言ってるでしょ!」
「私は心配してるんだよ!」
「嘘だ! 痩せてる私が羨ましいから、太らせようとしてるんでしょ⁉ そうはいかないんだから!」
ベルは友達を突き飛ばす。
「痛!」
それを見ていたクラスメートが駆け寄る。
「大丈夫?」
「怪我したら危ないでしょ!」
その他大勢もベルに白い視線を向ける。
「ああ、そう。皆して私が痩せるのを邪魔しようってことね。ふざけるな!」
彼女は椅子を持って暴れた。
後、教員がやってきて彼女は取り押さえられた。
「ベルさん。貴女は少し休んだ方がいい。なおるまで休学でいいですから」
帰宅後、彼女は泣いた。
私だってご飯は食べたい。元々食事だけが楽しみだったのに。恋のためにそれを手放したのに。こんなことって……。
その日の夜も彼女は食糧庫を漁り、目を覚ました。
「あああ!」
食料の入った箱を蹴った。すると箱が倒れ、中身がこぼれた。それを彼女は拾い上げる。
「!」
そして彼女は拾った。この魔道具で水を飲めば、食べても太らない。そんな希望を。
彼女は泣いて喜んだ。
「これなら無理せず、体型を維持できる」
それから彼女は食べまくった。休学中なのをよいことに、朝から晩まで食べまくった。ついには狩りの仕方を覚え、肉を一頭丸々食べる事を考えた。
そして現在に至る。
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