第27話 貴族

貴族

「まずは当屋敷の清掃についてです」

「「よろしくお願いします」」

 アマナスとオーサーはセバスから指導を受ける。

「窓は潜在を吹きかけ、雑巾で拭きます。拭き方は、まず窓の縁側を一周します。そして上から横向きに拭いていきます。ではやってみてください」

 窓ふきは簡単にできた。

「次に廊下清掃です。この室内箒をつかいます。こちらもまずは外側を一周します。次に中央に向かって横向きに拭きます。端まで行ったら、反対側から同じようにします。その後、中央を掃きながら一往復すれば完了です」

 こちらも問題なくできた。


 廊下を清掃しているときに、絵画がよく飾られているのに気が付いた。

「マモさんは絵が好きなんですか?」

「絵画に限らず、芸術品を好んでおられます」

「その割には、飾ってるのはあんまり良い絵じゃないな」

 オーサーが駄目出しをする。

「お分かりですか?」

「マモほどじゃないが、俺もそこそこ裕福な家庭で育ったからな。絵の良し悪しは多少分かる」

「それで、どうですか?」

「いかにも成金が買いそうな絵だ。技術はあるんだろうが、ただそれだけの絵になっている。」

「へぇ」

 その絵以外にも、陶器や花、アクセサリーもオーサー曰く、一流とは思えないそうだ。

「もしかしてあいつは、こういうものに興味が無いのかもしれないな」

「その通りでございます」

「やっぱりな。それでも貴族たるもの、相応の暮らしをしろってところだろうな」

「それだけではないのですが……」

「じゃあどんな理由が?」


 メイドサイド。

 オーメンとリコはメイドから指導を受けていた。

「ここまでで質問はありますか?」

「大丈夫!」

 リコは元気に返事する。しかしオーメンはそうではないようだ。

「クロさん。貴女は魔道具ですよね?」

「そうですよ!」

 クロは元気に答える。

「私は魔道具を集める旅をしてます。だから貴女のことも、できれば収集したいのですが」

「それは出来ませんよ~」

 おちゃらけて答える。

「そうですよね。だから代わりに、クロさんがどんな魔道具なのか、聞かせていただけませんか?」

「私は家政婦魔道具です。主人に忠実な、ただの人形です」

 少し悲しそうにする。

「どういう経緯でここへ?」

「私が目覚めたとき、焼け落ちた屋敷にいました。その前には、ボロボロになったマモ様のお父様がいらっしゃいました」


 二十年前。

「ここは?」

「ここは僕の友達の家だったんだ。もう亡くなったけどね。それなのに人影見たと聞いたから、来てみたんだ。そしたら君がいた」

「そうですか。仕えるべき主人はもういないのですね。私はこれからどうすればよいのでしょう」

「当てがないのなら、ウチに来るといい」

「よろしいのですか?」

「貴族の義務さ」

 家へ戻ると

「旦那様! その怪我は⁉」

「名誉の負傷だ。セバス、メイドにこの子の服を選ばせるように」

「ッ。かしこまりました」

 

 旦那様は怪我だらけだったのに、私ことを気にかけてくださいました。しかし周りの方たちは、人形である私を不気味に思っていたのです。

「クロ。君はよくやってくれている。そこで、息子の面倒を見てもらいたい」

「マモ様のですか」

「ここは人手が足りている。あの子には専用の屋敷を与え、早いうちに自立心を養ってもらいたい」

「謹んでお受けします」

「ありがとう。セバスもあの子に付かせる。二人しか従者がいないが、君たちなら何とか出来ると信じている」

 後になって思いましたが、きっと旦那様は嫌われ者を遠ざけたかったのでしょう。まだ八つのマモ様を私とセバス様に任せ、ここに追いやったのは、自ら犠牲を払うことで周囲を黙らせようとしかたらだと思います。

 

 しかしそれはマモ様にとっては、とても理不尽な仕打ちです。

「お父様、ここは?」

「マモの新しいお家だよ」

「お父様もここに住むの?」

「マモとセバス、そしてクロの三人で暮らすんだよ」

「なんで?」

「貴族の義務さ」

「お父様って何かあると、すぐそう言うよね。僕のことは義務で育てたの?」

「違う。僕は君を愛している」

「嘘つき! 行事があっても、学校に来るのはメイドばっかり! 宿題を見るのは執事だし、学校の話を聞いてくれるのはセバスだけじゃん! この屋敷だって、俺のためじゃなくて従者のためなんでしょ⁉」

「そんなことはない!」

「じゃあ何なの⁉」

「それは……」

「ほら何にも言えないじゃん。行こう。セバス、クロ」


「あの時からお二人の間に亀裂が入ってしまわれました。私のせいです」

「そんなことないよ。お姉ちゃんは悪くない」

 リコが慰める。それに続いてオーメンも励ます。

「悪いのは周囲の人間だと思います。彼らの目がなければ、追い出されることもなかったのに」

「そう言っていただけると、少し楽になります」


 セバスサイド。

「マモ様はこの屋敷に越したあと、心の穴を埋めるように物を買いあさりました」

「それでこんなに、物があるのか」

「なんだか悲しいですね。親から愛されていないと思うなんて」

「旦那様がマモ様を愛しておられることは間違いないのですが、それをご理解いただくことは難しく、未だお二人の関係は悪いままです」

「まあでももう大人だし、親からの愛が絶対ってわけじゃねーだろ」

「そういうものなんですか?」

「そういうもんなの」


 と会話に花を咲かせいた。

「おいお前ら何の話をしていたのか知らねーが、手を動かせ手を」

 マモがやってきたので家事に戻った。

 物で埋めているのなら、いつか物で埋めなくても済むようになるといいな。と思うアマナスだった。

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