第24話 敗北

敗北

 アントラの裏切りが発覚したころ、アントラは村で作戦会議をしていた。

「よし。ではこの作戦でいきましょう」

 おー、と掛け声がかかる。

「しかしアントラさんは甘いね」

「あれでも幼馴染ですから」

「なら仕方ないか」


 王国。

「申し上げます。例の通路が使用された形跡を見つけました」

「……そうか。下がってよいぞ」

 王は大きくため息をついた。そして近くにいた家臣に告げる。

「全兵力を集めろ。村を叩く」

「はっ!」

 

 兵士達が王宮前に集まる。

「隣の村の付近に鉱山を見つけた! そこを掘れば我が国は更に豊かになる! そして人手についてだが、村民を使う! これより進行を開始する!」

「おー!」


 兵士達がこちらに来ていると知らぬアマナス達は、昼食を摂っていた。

「ここのご飯美味しいですね」

 アマナスが老人に話しかける。

「そうじゃろう。この村はブリテー国の前身のようなもの。農業においては世界一じゃ」

 そんな会話をしている時、凶報が訪れる。

「じいさん大変だ! ブリテー国の奴らが攻めてきた」

 荒々しく戸を開け、村民が知らせる。

「そうか、来おったか。皆、先程の作戦通りに動いてくれ」

「了解!」


 村の外五百メートル地点。ブリテー王国の兵士達が列を成して向かってくる。

「雷撃」

 オーメンが雷魔法を放出する。

「うわあぁ」

 一撃で千人近くの敵を気絶させた。

「ブラックマジック。コールド」

 アマナスも魔法を撃つ。

「ウッ」

 こちらは二百五十人ほどを倒した。

 アントラとオーサーは氷魔法を繰り出すが、アントラが三十、オーサーが二十五と、二人に比べると足止めできる数は少ない。


 敵からの反撃が来る。

 こちらは炎や雷、鉄など、攻撃的なものばかりだ。

 それを老人を始めとする村人たちは、土魔法と防御魔法で防ぐ。リコも未熟ながら、防御魔法を使う。

 王国軍と村軍の間を、アントラが馬に乗り駆け抜けていく。

 勿論彼は狙われるが、アマナスが同乗し、守りながら突き進む。

 バッタバッタとなぎ倒す。

「何だよあれ!」

「怯むな! 強いのは二人だけだ!」

 アマナス達に狙いを定める敵を、オーメンは的確に撃ち抜く。

 ドドドと近づくアマナス達に恐れをなした王国軍は、統率がとれなくなる。 

「こんなに強いなんて聞いてない!」

「おい、逃げるな! あの女さえ倒せばこっちが有利だ!」

 専業兵士達は戦いを続けるが、本業農家の兵士達は既に撤退を始めた。

 アマナスとオーメンは攻撃を止めるが、馬を走らせ続ける。

「なんで着いてくるんだよ!?」

「知らねーよ」

「いいから逃げろ」

「王が勝てるって言ってたのに!」

 追いかけるよ。狙いは王だから。アントラは心の中で呟く。

 

 ついに王宮まで追いかけた。

「モナク王! アントラです! どうか話を聞いてください!」

「黙れ裏切り者め! 何故そやつを連れてきた!?」

「そこも含めてお話させてください」


 王の間。

 王とアントラとアマナスの三人以外は部屋から出ている。

「単刀直入に申し上げます。この者に、魔道具をゆずってはいただけないでしょうか?」

「アントラ。魔道具のことをお前に知らせたのは、そんなことを言わせるためではない」

「承知しております。それでも現状、その方が良いと判断致しました」

「理由を申してみよ」

「モナク王。貴方は昔、雨が降らなくなると村中に触れ回っていたことを、お覚えでしょうか?」

「屈辱の記憶だ」

「あの時私の父は、不吉なものを使うなどと言って、聞き入れませんでしたが、私は信じていました」

「なら父親を説き伏せるべきだったな」

「それに加え、私は憧れたのです。不吉を恐れず魔道具に触れ、皆のために役立てようとしていたモナクに」

「やらなきゃよかったがな」

「掌を返したのが、きっとモナクの心を壊してしまったのだと思う」

「敬称をつけろよ」

「嫌だ。俺は今、あの頃のお前と話してるんだ」

「はぁ?」

「俺がブリテー王国に来たのも、お前が心配だったからだ。あんな冷たいことを言ったお前が、他国を踏み台にするんじゃないかって。そして事実、お前は踏み台にした!」

「止めればよかったじゃないか」

「ああそうだよ!止めるべきだった! でも未来視には勝てなかった」

「今は勝てるクセにな」

「本当に最近だったんだ。奴隷だった子が、お礼にと言って魔道具を贈ってくれた。それでやっとになれたんだ」

「……」

「未来視なんて無くても、皆お前を無視したりしないから。頼りないとか言わないから。だから魔道具なんて捨てて、普通の国の普通の王になろうよ」

「駄目だ。信じられない。国民は俺の未来視を、そうと知らずに頼りにしてる。今更捨てられない」

「あのー。ちょっといいですか?」

 アマナスが口を開く。

「俺のいた国の王も聡明で、頼りにされてるんですけど、絶対じゃないんです。失敗することもありますし、期待に応えられないこともあるんです。でも、国民はちゃんと自律しているんです。だから王が失敗しても、自分たちで出来ることを探しますし、信頼を失うなんてことはないんです。なので、この国もきっと大丈夫だと思いますよ」


 王は顔を伏せる。そこに戸を叩く音がした。

「王よ。ディプロです。村人達への交渉についてお話がございます」

「あの方は?」

「外交官のディプロです。今回の敗戦の後始末について、話がしたいそうですね」

「ディプロ。此度の敗戦で、お前は俺に失望したか?」

 王が問う。

「とんでもございません。人間生きていれば負けることもあるでしょう。つきましては、村人たちとの話し合いについて、案を挙げてまいりました。ご査収くださいませんか?」

「すぐ向かう。会議室で待っていろ」

「はは」

 王はアマナスの目を見る。

「アマナス。お前の言うことが正しいのか、確かめたくなった。魔道具はお前に預けることにする。だが間違いだったと思ったら、取り返しに行く」

 アマナスは大きく息を吸って「はい」と答えた。

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