第22話 狂いだした歯車

狂い出した歯車

「一週間後、野生動物たちが夜中に畑を荒らす。撃退の準備をしろ!」


 予言通り野生動物達が畑に来、村人たちは各々撃退した。

 ある家庭は野生動物を殺さず、逃がした。それを知ったモナクはその家庭に行き、逃がした理由を問いただした。

「なぜ殺さなかった?」

「無闇に殺すのは可哀想でしたし、生態系への影響も心配でしたから」

「お前のその考えが、他の畑への被害に繋がるとは考えなかったのか?」

「しかし、来ても無駄だと皆で学習させれば、殺さなくてもいいはずです」

「その考えが既に迷惑だ」

 彼は村人の考えをばっさり切り捨てる。

「いいか、次に野生動物が来たら迷わず殺せよ。分かったか」

「……はい」

 モナクは村人の話を聞かなくなっていった。不満があっても、魔道具に頼ることを覚えた村人達は、彼には逆らえなかった。


 ある日モナクは村を出ると言い出した。

「隣のブリテー国に行って王になる」

「そんな、この村を捨てるのですか?」

「捨てるも何も、俺は元より、王になるためにこの村で経験を積んでいたのだ」

「そんな」

「喜べ諸君! この俺の、王道への踏み台になれたことを!」


「それ以降、この村にたびたび子どもが逃げてきた。学習の機会を提供すると言われて王国へ来たものの、働かされてばかり。騙されたという者ばかりじゃった」

「それが奴隷」

 オーメンが呟く。

「あいつは、捜索隊を送り込んでくることもあった。差し出さねば、代わりの者を連れて帰ると言ってきた」

「酷すぎます」

 アマナスはリコを抱き寄せる。

「今回君らが来たのも、そういうことかと思ったのじゃよ」

「逃げましょうよ」

 アマナスが提案する。

「どこへ?」

「どこか遠くへ」

「そんな曖昧な案には乗れんな。第一あいつには魔道具がある。逃げることを見られたら終わりじゃ」

「なら戦いましょうよ。ここは既に狙われているんですよ! 逃げないなら戦わないと!」

「それも無理じゃろう。未来視には勝てん」

 先程の魔法の撃ち合いで、この老人が強いことは分かっている。その彼がこう言うのなら、不可能なのだろう。

「でもこのままなんて……」


 と、そこで戸が叩かれた。

「アマナスさん。いますか? アントラです」

「アントラさん!」

 アマナスがガラっと戸を開け、出迎える。

「おぬしか」

 老人はアントラを知っているようだった。

「ご無沙汰しております」

「知り合いなんですか?」

「さっきの話に出てきた農家の子どもじゃ」

「そうだったんですね」

「それと、捜索隊もやっておる」

「なんでですか!?」

「落ち着きなさい」

 老人がたしなめる。

「彼は国から逃げてきた子どもを、捜索隊から逃がしていたのじゃよ」

「そうなんですね」

 良かったと、胸をなでおろす。

「のう、アントラ。話はこの子らから聞いたが、おぬしはどう考えておる?」

「大丈夫です。私とこの方たちがいれば、王を出し抜くことは可能です」

「そうか」

 老人はあっさり受け入れた。

「俺たちがですか?」

 アマナスが問う。

「皆さんは魔道具をお持ちですよね?」

「そうですけど、それがどういう……」

「王の魔道具は、魔道具を所持している人の未来視は、精度が著しく落ちるのです」

「そうなんですか!?」

「だから私がここにいるのです。皆さんの荷物も運んでありますので、決着が着くまでは魔道具を離さないでくださいね」

 四人は廊下に置いてある荷物を受けとる。


 アントラは話を切り替える。

「彼は魔道具を手にするまでは、他者を犠牲にするような人ではなかったんです。私は彼を救いたい! 昔のように、皆と同じ視点に立てる人になってほしい! だから協力してください。お願いします」

 彼は頭を下げてアマナス達に頼み込む。

「勿論、協力いたしますよ」

 オーメンは微笑みをたたえ、肩に手を置く。

「俺も協力します」

「私も!」

「ネタになりそうだしな」

 三人も同意した。

「ありがとうございます」

 アントラは涙を流しながら感謝した。


 かくして、モナク王との戦いの火蓋が切って落とされた。

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