第21話 原体験

原体験

「こんな隠し通路があったんですね」

「本来は王の身に何か起きた時のためのものですが」

「なんかすみません。こんな使い方をさせて」

「今回は仕方ありません。それより、ここから真っ直ぐ行くと、小さな村があります。伝言、頼みましたよ」


 アントラと分かれて三十分ほどが経った。

「まだ着かないの?」

 リコが不安そうに訊ねる。

「疲れたよね。そろそろ着くと思うからもう少し頑張ってね」

 オーメンがリコを励ます。

「あれじゃないですか?」

 アマナスが指さす。

「あれが村?」

 そこには村というより、スラムと呼ぶにふさわしいほど、貧相な家が並び立っているだけだった。

「私の家みたい」

「兎に角、人を探そう」


 四人は近くの家の戸を叩く。

「すみませーん」

 数秒の沈黙の後、住人が戸を開ける。

「誰だ」

 険しい顔をした老人だった。

「私たちはブリテー王国から来ました」

「ブリテーから!? あいつめ、ついに一線を超えおったな!」

 老人は火炎魔法を使ってきた。オーメンがそれを水魔法で打ち消す。蒸気が立ち込める。視界が塞がる。

 それでも魔法の撃ち合いは続く。

 アマナスはリコを抱きしめ、守る。一方オーサーは防御魔法を使った。

 音がなり止み、水蒸気と砂ぼこりが晴れると、オーメンが老人にマウントをとっていた。

「いきなり撃つなんて危ないじゃないですか」

「はぁ……はぁ……。殺るなら殺れ」

「殺りませんよ。私たちはお話をしにきたんですから」


 四人は老人の家に入り、これまでの経緯を話した。

「そうか。やはりあいつは一線を超えるつもりだったか」

「その一線を超えるっていうのは、どういうことですか?」

 アマナスが問う。

「儂はモナクの父だ」

「!?」

「あいつは家族思いな息子だった」


 二十年前。モナク十五歳。

「なぁ父ちゃん。もっと楽になんねーの?」

「つべこべ言わずに手を動かさんか」

「だってよー。やってもやっても終わんねーんだもん」

 その日モナクは追肥作業をしていた。

「はぁー、寒いさみーし手痛いいてーし、最悪」

 そうは言いつつも、農作業を手伝っていた。そして彼は掘り起こしてしまった。指が固い物にあ当たった。

「ん? 何だこれ?」

 手に取った瞬間、彼は未来を見た。明日の雨以降、二週間雨が降らなくなると。

「これは魔道具か……」

「これモナク、ボサッとするな」

「父ちゃん大変だ。雨が降らなくなる」

「サボりてーからって嘘吐くな」

「ホントだって。ほら」

 そう言って魔道具に触れさせる。

「これは……。分かった。貯水の準備だ」

「うん!」

「モナク。お前は村の皆にも知らせろ」

「分かった」


 モナクはこのことを村民に知らせた。しかし。

「魔道具なんて不吉なものを使うとは何事か!」

「え?」

「お前たち親子は昔から変な物を育て、可笑しなことばかり言う」

「だって、甘いものは人を幸せにするから。それを作れる物を育てるのは良いことだって、父ちゃんが」

「うるさい! あっちへ行け」

 誰も話を聞いてくれなかった。


 そして魔道具で見た通り、雨は二週間降らなかった。

 その間、村人はモナクの家へ来ては、水を求めた。

「頼む! 水をくれ」

「注意はしたのに、聞かなかったのはそっちじゃないか」

「そこを何とか」

「嫌だよ。水なんてやるもんか」

 戸を閉めようとしたモナクを、父は止めた。

「ウチも余り余裕があるわけではないが、多少は配れる」

「ありがとう」

「何でだよ。父ちゃん」

「今まで儂らが嗜好品を育ててこれたのは、村の皆が必需品を育ててくれたからじゃ」

「……。おいオッサン! 感謝して使えよ!」

 モナクは偉そうに吐き捨てた。

 

 それ以降、村人は掌を返したかのように、モナクの魔道具を頼りにした。

 そしていつしかモナクは村を掌握するようになった。

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